迷走Brexitで生じた独仏結束の綻び。国際交渉人が危ぶむEU分裂

 

結果は、ご存じの通り、10月31日までの限定延長で、かつ『これは最後の延長』という姿勢になり、一応、表向きはOne Europeの意向として英国政府に突き付けられ、それがメイ首相の政治生命に止めを刺すことになりました。その結果、Hard Brexitも辞さないジョンソン首相が誕生し、その後の英国議会での混乱は皆さんご存じの通りです。

一応、One Europeの体裁は保ったのですが、“最後”とくぎを刺した10月31日が1週間後に迫る中、英国議会はまた再延長を要請し、それを受けて、もう任期が1週間しかないoutgoing president of the EU(トゥスク大統領)が再延長を認めるように各国に依頼するという事態を“また”迎えてしまいました。

再延長の承認には、全加盟国の全会一致がルールですが、すでにフランスのマクロン大統領は「絶対に認めない」と鼻息が荒くなっていますし、メルケル首相も、聞くところによると、もう呆れてものが言えない状態だが、それでも欧州統合の要としては「話だけでも聞いてみては」と“協議の可能性”を示唆しているようです。すでに、独仏の結束は綻びています。

マクロン大統領がここまで頑なな対抗姿勢を示すのには、「もうこれ以上、ずるずると私たちの時間を無駄にはさせない」とのいら立ちやプライドを傷つけられたとの思いがあるかと思いますが、その裏には、『隠れた意図』と、これまで独仏間で共有してきた“脅威”が現実味を帯びることへの強い警戒心があります。

まず、『隠れた意図』ですが、こちらはドイツとの姿勢の違いをあえて打ち出し、強いフランスのイメージを表面化させることで、これまでEUの統合プロセスにおいて、常にドイツの後塵を拝していた地位を返上し、『EUはフランスが率いるのだ!』という強い政治的な思惑が働いています。

科学技術やAI、自動車産業の発展など、まだまだEUの経済政策面では、密接に協力する両国ですが、政治・安全保障を含む『EU内での主導権争い』の側面では対立が際立ってきています。

そこでフランスの“復権”を感じさせる出来事が、次期EU大統領の地位を“フランス系”ベルギー人にとらせ、その代わりに、ダークホースとさえ言われ、ゆえに支持獲得に苦労したドイツの前防衛相を委員長に据えるという『人事ゲーム』を仕切ったことと、『ドイツ有利』と言われていたECB(欧州中央銀行)総裁のポストを、わざわざIMFの専務理事の職を辞させてまで、ラガルド女史を出して、獲得したことで顕在化しているように思います。この巧みな『人事ゲーム』により、これまで加盟国はドイツ・メルケル首相の顔色を窺っていた姿勢が、フランスのマクロン大統領の顔色を窺うケースが多くなってきているようです。

ゆえに、今回のBrexitにかかる延期要請には、これまで以上に、フランスの意向が働くことになり、望まないが致し方ない結果として、Hard Brexitが結果として選択されるということになるのかもしれません。それを裏付けるように、英仏国境部はすでに税関を設置するなどのHard Brexitモードに入っていますし、ドイツの経済界もHard Brexitに対応する体制は整ったとのことです。

print
いま読まれてます

  • 迷走Brexitで生じた独仏結束の綻び。国際交渉人が危ぶむEU分裂
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け