「反対」の意思表示をするときは、争点を曖昧にせず、客観性を高め、緻密な相互理解が必要になりますが、この「賛成しかねる」の言い回しは、議論を合理的に進めるために、とても有効です。
いたずらに聞き手の感情を揺さぶらず、反対するのは、あなたと私の立場、価値観が違うだけ、と双方が割り切ることができますし、あなたの価値観を理解できたうえでもなお、私は反対であるという、強い意思表示になります。
また、賛成の人の立場への理解も先に述べる形になるのですが、これが客観性を高めるだけでなく、相手の正当な反論のきっかけを与えることになります。反論されてはいけない、そのきっかけも与えてはならない、と思うのは、相手を「やり込めたい」時であり、それに終始してしまっては遺恨が残ります。健全な議論をするのであれば、きちんとした反論もしてもらったほうが後腐れありません。
例えば、御社のこういうお立場はご理解できますが、私共はこういう理由で受け入れられません…と表明すれば、相手は、それだけではなく、私どもの立場はさらにこうで…と別の要因も主張しますよね。それに対してさらに、それでもなお、受け入れがたいのだ、と、お互いの主張理由を、ひとつずつ消していくことができます。話し合いに後腐れがなくなるのは、ここがポイントです。
なおかつ、どうなれば賛成できるのか、代替案や許容範囲を提示すれば、そこから建設的な議論が始められますよね。その点が「反対」と言い捨てるよりも、「賛成しかねる」と言い換えをすすめる理由です。
また「賛成しかねる度合い」を、同時に表現するのも、アリだと思います。具体的には、「概ね賛成なのですが、2割程、賛成できかねる内容があります。」「賛成できる点も多いのですが、半分ぐらいのポイントにおいて、残念ながら賛成しかねる(隔たりがある、まだまだ検討を要するところが…)」など。
「反対」を言い換えた「賛成しかねる」ですが、それでも反対の意味は含んでいます。反対の意味が先に立ってしまうと、全面的に反対であると誤解される恐れがあり、話の冒頭から、聞き手に警戒心を抱かせてしまうものです。ですから、どのぐらい賛成できかねるのか、その度合いと、せっかく賛成できる部分があるのなら、賛成という言葉を先に出してしまった方が、理解を得やすくなるものです。
このように、言葉の繰り出し方のちょっとしたこと、「ものは言いよう」で、話の進み方は全然違ってくるんですよね。そして、ネガティブワードの言い換えは、「ものは言いよう」の最たるものだと思います。
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