自社スタッフを思いやり、さらに彼らの声を大切にしたことが市場での大ヒットにつながる…。そんな「誰もが幸せになる」事例を取り上げているのは、MBAホルダーの青山烈士さん。青山さんは今回、自身の無料メルマガ『MBAが教える企業分析』で、アサヒ軽金属工業の『ドクターマット』の誕生秘話を紹介するとともに、同社の戦略・戦術を分析しています。
産業用から家庭用へ
今号は、お医者さんが考えたキッチンマットを分析します。
● アサヒ軽金属工業が展開しているキッチンマット「ドクターマット」
戦略ショートストーリー
長い時間キッチンに立つ方をターゲットに「産業医の視点」や「独自素材」に支えられた「長時間の台所仕事がラクになる」「掃除がラク」等の強みで差別化しています。
足腰の負担が軽減されるというエビデンス(体圧分散効果)や実名のお客様の声、採用事例、自社工場で利用されていることなどを伝えることで信頼を得ています。
■分析のポイント
「ドクターマット」は、もともとは自社工場スタッフの疲労軽減のために開発されたものです。
開発者である産業医の方が、「アサヒ軽金属工業」の工場を巡回している時に、床面が硬く、立っているだけでも腰やひざに大きな衝撃があることに気づいたそうです。この気づきがもとになって、ドクターマットが開発されました。
そして、「ドクターマット」が導入された工場のスタッフからの「家のキッチンにも欲しい」という声がきっかけとなり、家庭用として商品化されています。
「アサヒ軽金属工業」の素晴らしいところは、まず、自社スタッフのことを考えているところです。自社スタッフの疲労軽減まで考えている企業は多くはないですし、考えるだけでなく、実際に「ドクターマット」を導入するという手を打っていますからね。
もう一つは、スタッフの声を聴いているというところです。工場スタッフの「家のキッチンにも欲しい」という声をひろって家庭向けに商品化しているわけですが、スタッフの声をきっかけに、商品化につなげるという姿勢からスタッフの声を大切にしていることがうかがえます。
また、工場のスタッフに好評だから他社の工場に売りにいこうというのは、普通の発想ですが、「アサヒ軽金属工業」のように工場のスタッフに好評だから、家庭向けに商品化しようというのは、柔軟な発想だと思います。
この発想のポイントになるのは、工場の作業を「立ち仕事」という少し大きなくくりで考えることです。工場の作業者に好評という捉え方でなく「立ち仕事の方」に好評と捉えられれば、工場に限らず、店舗や家庭にも利用シーンを広げることができるのです。
そういった意味では、世の中に立ち仕事はたくさんありますので「ドクターマット」を必要としている方は多いのではないでしょうか。
身近な立ち仕事で思い浮かぶのがスーパーのレジスタッフの方です。ほぼ立ちっぱなしですからね。「ドクターマット」を導入したらスタッフに喜ばれそうです。経営者側の視点でみても、疲労はミスを誘発させますから、スタッフの疲労軽減を図るのは、ミスを減らすうえで有効な打ち手となりうると思います。
今後、「ドクターマット」がどのように広がっていくのか注目していきたいです。