なぜ、稲盛和夫はあえて人の弱みをマネジメントに組み込んだのか

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2019年3月期の売上高が1兆6,237億円と2期連続で過去最高を記録するなど、絶好調の京セラ。2020年3月期にはさらに1兆7,000億円の売上高を目指すと言います。そんな京セラを支えているのは、創業者で日本を代表する実業家の一人、稲盛和夫氏が創り出した『京セラフィロソフィー』。経営哲学のみならず人生哲学でもあるこの考え方には、働く上で重要な様々なファクターが詰まっていると言います。今回ご紹介する無料メルマガ『戦略経営の「よもやま話」』では、著者の浅井良一さんがその『京セラフィロソフィー』を取り上げ、ドラッガーの言葉も引用しながら、経営におけるその本質に迫っていきます。

“物心両面”の幸福

京セラの稲盛和夫さんが創業した経緯は、上司である技術部長の無理解に腹を立てて碍子(陶磁器)の会社を退社したことが起こりでした。行末に迷っていたその時に、稲盛さんを高く評価していた元上司らの助言や資金支援もあって新会社を設立をすることになったのです。この時弱冠27歳で、経営についてはまったく未経験でのスタートでした。

そして経営について考えさせられるそのことが起こったのは創業3年目のことで、前年に入社した高卒社員11名が定期昇給やボーナスなどの待遇保証を求める団体交渉を申し入れてきたのでした。創業当初の目的は「自分たちの技術を世に問う」ことであり、創業メンバーはとにかく必死で働くことが当たり前の状態であったときのことです。

この受難とも思える一件が、稲盛さんをして“経営における指針”とは何かを考える貴重な切っ掛を与えることになりました。「会社とはどういうものでなければならないか」ということを真剣に考え続け「会社経営とは、将来にわたって社員やその家族の生活を守り、みんなの幸福を目指していくことでなければならない」と思い至ったのです。

そうでなければ、社員は「安心して働く気持ちになれない」としてです。

そして、そのための条件は「会社が長期的に発展して行くため社会の発展に貢献する。社会の一員としての責任も果たす必要がある」。ここに、社会貢献よりも従業員の幸福を先述する「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること」という独創的な“京セラの経営理念”が定められることになりました。

はてさてなのですが、この経緯をここで披瀝しても、多くの経営者の方は「それが何なんだ」ということになりそうなのですが、これがけっこう企業経営において重要なポイントであって、ドラッカーが“人のマネジメント”として述べていることに符合させると、思わぬ「京セラの経営理念」の底力が見えて来そうです。

ドラッカーはこのように言っています。

“人のマネジメント”とは、人の“強み”を発揮させることである。人は弱い。悲しいほど弱い。問題を起こす。手続きや雑事を必要とする。人とは費用であり、脅威である。

しかし、人はこれゆえに雇われているのではない。人が雇われるのは“強み”ゆえであり“能力”ゆえである。

“組織の目的”は、人の強みを生産に結びつけ、人の弱みを中和することにある。

「人こそ資産である」という「組織の違いは人の働きだけである」。事実人以外の資源は、同じように使われる。

ここで、よく考えていただきたいのですが「弱みも持つとする人」を“資産”として成長できなければ何の“強み”も生まれないということです。

人が“資産”に変身してもらうための、また経営者および経営陣が共通の認識を持ってもらうためのその第一歩が必要でそれがあるのとないのとでは、企業経営の“軸”の通り方が違ってきます。「全従業員の物心両面の幸福を追求する」と公に宣言されることによって、それも“心”と言われては「弱い人」でも無関心ではおられません。

京セラの「経営理念」には他の企業とは一味違う“思い”が流れており、多くの一般感覚の人をして“意欲”と“認識”を生む“しかけ”であって、経営者が“知恵”として持たなければならない“教養”なのです。

前回はトヨタの“強み”を“人のマネジメント”と絡めて、その源泉を土地柄と歴史から生まれた知恵のある「企業文化」だとしました。京セラの場合はどうなのか、京セラの場合のそれは先に述べました稲盛さんが創業間もなしの時の思わぬ出来事から、瀬戸際に追いつめられて悟るに至った「経営理念」が“強み”の基盤を生んで行きました。今回は「京セラの経営理念」が“人のマネジメント”に対してどのような“機能”を持つのかのロジックを知ろうと思います。いきなりその“ロジックの核心”を言ってしまうと、それは「私がもしくは私たちが“物心両面”で“幸福”になるために、組織(京セラ)こそがその“機会”を“弱さ”をも中和して与えてくれる」が真相です。

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