インフルエンザ新薬「ゾフルーザ」塩野義製薬が誕生させた秘話

 

巨大ライバルも味方に~インフル新薬の世界戦略

インフルエンザを警戒するのは日本だけではない。アメリカでは昨シーズン、インフルエンザが猛威をふるい、90万人が入院し、8万人が死亡するなど大変な騒動となった。不安が高まるアメリカに手代木の姿が。「ゾフルーザ」の世界展開の打ち合わせだという。

そこに現れたのは製薬会社の世界トップ、ロシュ社のCEO、セヴリン・シュヴァンさん。ロシュはスイスに本拠地を置き、売り上げはなんと6兆円という巨大企業だ。インフルエンザ治療薬「タミフル」を手がけた塩野義のライバルでもある。

だが、そんなライバルの口から出たのは「ロシュの研究者は、塩野義の『ゾフルーザ』について知った時、とても興奮したんだ。まったく新しいメカニズムの薬だ。最先端の研究で多くの可能性があるからね」(シュヴァンさん)という言葉だった。

一方、手代木も「ゾフルーザ」を世界で売るにあたり、提携先は「タミフル」で世界中に販路を持つロシュこそ最適と考えた。両社の交渉が始まったのは2015年。しかし、承認に伴う販売開始時期の見通しで対立した。もともとアメリカでの臨床試験はロシュがやることになっており、承認されるのは2022年と見ていた。

そこで出たのが手代木マジック。手代木は「臨床試験は塩野義がやり、2018年までに承認を取る。それが成功したら、臨床試験にかかる数百億円の費用を1.5倍にして返してほしい」と交渉したのだ。実は、ロシュにとって「タミフル」の特許切れも迫っていた。この時期に「タミフル」に代わる新薬が販売できるとなれば最高だと、話に乗ってきた。

結果は手代木の読み通り。塩野義の臨床試験の成果が評価され「ゾフルーザ」はアメリカでも異例のスピード承認となったのだ。「イサオ(手代木)さんは最初から自信を持っていた。結局、彼が正しかったね。我々はとてもうまくいっている。結婚したカップルみたいだよ」(シュヴァンさん)

製薬業界、世界のトップをも感服させた手代木は、その交渉術の秘訣をこう語った。「私はいつも、交渉というのは51対49で勝つのが理想だと言っているんです。100対0で勝っても、絶対どこかでやられる。双方にいいところでどう着地させるか、です」

~村上龍の編集後記~

<出演者略歴>
手代木功(てしろぎ・いさお)1959年、宮城県生まれ。1982年、東京大学薬学部卒業後、塩野義製薬入社。1987年、1994年と2度アメリカに赴任。2008年、社長就任。

(2019年1月24日にテレビ東京系列で放送した「カンブリア宮殿」を基に構成)

テレビ東京「カンブリア宮殿」

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