剥がれた化けの皮。安倍首相「やってるフリ」で逃げ切り図る賭け

 

「アビガン」キャンペーンは大丈夫か?

もう1つの悪質な「やってるフリ」芝居は、新型コロナウイルスへの治療薬が今にも出来るかのようなキャンペーンで、これには特に読売新聞が前のめりになって旗振り役を買って出ている。

安倍首相は3月28日の記者会見で「一日も早く皆さんの不安を解消できるよう、有効な治療薬やワクチンの開発を世界の英知を結集して加速してまいります」と言って、新型インフルエンザの治療薬アビガンなどいくつかの薬品名を挙げた(本号FLASH 欄参照)。そのアビガンについて4月5日付読売は一面トップで、「アビガン200万人分確保/新型コロナ/経済対策原案5本柱」の大見出しを掲げ、さらに第3面でこれを受けて「ワクチン開発短縮に挑む/世界の大手続々/早ければ『1年』」と8段記事で盛り上げた。

もちろん、治療薬と予防ワクチンが1日も早く開発されるよう、誰もが待ち望んでいるが、だからと言って過剰な期待を抱かせるようなことを一国の指導者が口にするのはよろしくない。というのも、アビガンは富士フイルム富山化学が開発した抗インフル薬で、それが新型コロナウイルスにも有効だと中国の科学技術省の主任が3月17日に発表したため、俄に注目が集まってはいるけれども、実はこれが国の承認を受ける際に催奇形性(奇形児を産む危険)があることが問題になり、条件付きの承認となった経緯があるからだ。

橋本宗明=日経ビジネス編集委員は3月19日付同誌電子版でこう書いている。

そもそもアビガンは14年に抗インフルエンザ薬として日本で承認されているが、通常の医療用医薬品とは扱いが大きく異なる。「他の抗インフルエンザウイルス薬が無効または効果不十分な新型または再興型インフルエンザウイルス感染症が発生し、本剤を当該インフルエンザウイルスへの対策に使用すると国が判断した場合にのみ、患者への投与が検討される」とされ、厚生労働大臣の要請がない限り販売はできない。

 

というのも、承認を取得した際、動物実験の結果などから催奇形性(さいきけいせい)を持つ可能性が指摘されたためだ。承認申請は11年に提出されたが、審査期間は約3年と長期に及び、既存の抗インフルエンザ薬とは異なるメカニズムであることから、新型インフルエンザに対する備蓄用の位置づけで何とか承認された。ただし、催奇形性が心配されるため、妊娠中や妊娠の可能性がある女性が使うことはできない。服用した薬は精液や母乳の中にも出てくるので、男性が服用した場合も避妊が必要だし、授乳も中止しなければならない。このように、慎重に使用する必要がある薬であり、臨床研究などを除いてこれまでほとんど使われてこなかった……。

さらに安倍首相は28日の会見で、もとはエボラ出血熱の治療薬として米国で開発中の抗ウイルス薬「レムデシビル」の名前も挙げた。これは試験管レベル、動物実験レベルではMARSやSARSに対する効果が確認されているものの、医学ライター=井出ゆきえの4月1日付「ダイヤモンド・オンライン」の記事によると、「実臨床ではこれまでに、エボラウイルス感染患者に対する投与が試みられたことはあるが、治療効果は認められていない、国内外ともに未承認の薬」であって、まずは本来のMARSやSARSの治療薬として承認された上で新型コロナウイルスに転用出来るかどうかを試すのだろう。まだトンネルの出口も見えない段階のようである。

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