コロナ重症患者の救世主となるか。中外製薬「アクテムラ」の実力

 

本庶氏は免疫をつかさどる細胞にある「PD-1」という新たな物質を発見。それが免疫の働きを抑えるブレーキ役を果たしていることを突き止めた。人の体が持っている免疫でがん細胞を攻撃する新しいタイプの治療薬「オプジーボ」は、この発見によって開発された。

免疫系の異常反応が、新型コロナウイルス感染でなぜ起きるのか、その解明と治療法の確立のために抗体医薬品「アクテムラ」の実地使用が必要であることを本庶氏という、分子免疫学の泰斗が主張している意味は大きい。

ごく最近のことだが、本庶氏は三つの緊急提言を発表した。

  1. 感染者を検出するPCRを毎日1万人以上に急速に増やす
  2. 東京圏、大阪圏、名古屋圏の1ヶ月の完全外出自粛
  3. 治療法として外国で有効性が示されているものを実地導入する

そして、こう指摘する。「目に見えない忍者のような敵を見つけることはできないが、毒をもらった人を発見して他人に移らないようにすることと、適切な治療で死亡を防ぐことが大切」と。

この提言にくらべ、現実に政府がやっている緊急事態対策がいかに生ぬるいかは、日本国民の誰もが感じていることだろう。

安倍首相の判断をいつにも増して鈍らせている元凶は、例によって秘書官や補佐官といった連中であろうし、厚労省の医系技官ともいえよう。

前例のない危機対応にあたふたする官邸官僚と、専門的知見をふりかざす厚労省医系技官とのコミュニケーションがうまくいっていないのも問題だったのではないだろうか。

2017年に新設された医務技監(次官級ポスト)には、評判の必ずしもよくない鈴木康裕氏が居座っている。医務技監はパンデミック対策の司令塔たらねばならないはずだが、忖度気質の強い鈴木氏がその器かどうかとなると、首をひねる関係者も多いようだ。

1984年に慶應義塾大学医学部を卒業し旧厚生省に入省、順調に医系技官ムラで出世してきたのはいいが、臨床経験は乏しく、ましてや感染症の対策をテキパキと指示できるほどの修練を積んでいない。

それでも、早期に大量検査体制を構築し、陽性の人々を見つけ出して隔離することが大切だと鈴木氏ら医系技官には十分わかっていたはずである。わかっているのに、必要な隔離施設、屋外での検査センターなどをつくっていく難事に着手するのを怠り、軽症者が入院すれば重症者のベッドが確保できないという理屈で検査数を抑えてきたのはなぜなのか。

現状変更を嫌がる気質がありながらも、専門的知見もまた有するはずの厚労省医系技官を、加藤厚労大臣や安倍官邸が他国の例を見たり、実地経験豊かな専門家の意見を聞くなどして、しっかりと機能させれば、対コロナの戦況は今よりずっとましなものになったであろう。

アビガンの承認手続きに関しても、軽症者にしか効かないにもかかわらず、重症者に投与したため、思ったような成績が出ず、遅れをとってしまった。

新型コロナ感染症から回復し抗体を有する人の血漿を用いた新薬づくりに武田製薬が米国の有力企業と共同で着手し、6月には治験を終える予定のようだが、平時のような厚労省の対応だと承認までに時間がかかってしまう。

国の存亡にかかわる緊急時には、強いリーダーシップによる迅速な戦略展開が必要だ。

なぜ安倍首相は「私がすべての責任を取る」と宣言して、完全外出自粛、思い切った補償、簡易な抗体検査とPCR検査を併用した大量検査を断行しないのか。今は財務省の財政健全化イデオロギーに付き合っている場合ではない。

image by: 厚生労働省 - Home | Facebook

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