ズル賢い中国。コロナ禍で見捨てられた国を支援で取り込む姑息さ

 

あえて繰り返しますが、この主張には今のところ明確な証拠(evidence)はありません。

もちろん、中国は正面から否定しますし、逆に【アメリカ軍が持ち込んだ生物兵器だ】とまで反論をしていますが、欧米との行き過ぎた対立を過熱させたくない中国当局(習近平国家主席周辺)は、その説を“一つの可能性”としてトーンダウンさせることで、対外関係と、習近平国家主席体制の初期対応の遅れを批判する国内情勢とのバランスを取ろうとしています。

この対外関係と国内政治の微妙なバランスを取らなくてはならないのは、中国を批判している欧米諸国も同じで、現政権に批判の矢が一気に向いてくることを避けたいがために、確証がないまま、COVID-19の起源地である中国を痛烈に批判していると言えます。

その批判の矛先は、アメリカが主張する中国による生物兵器流布論から、欧州各国が批判する情報隠蔽説と初期対応の遅れなど多岐にわたりますが、中国をスケープゴート化することで、何とか国内からの政権批判をかわそうとの狙いが透けて見えます。

そして中国とセットに批判の対象に加えられたのが、事務局長が中国賛美を繰り返して初期対応を“遅らせた”と批判されているWHO(世界保健機関)です。誰が何と言おうと、あのテドロス事務局長の中国擁護の発言は感心しませんが、パンデミック宣言の“遅れ”は、元国連人としていうならば、メディアで批判されているほど、国際政治に翻弄された意図的なタイミングではないと考えます。

今回、虚しくも各国から無視されましたが、専門家によると、今回の判断は2003年のSARSのパンデミック時の反省を込めて2005年に改訂された世界保健規則(すべての加盟国に対して法的拘束力を持つ内容で、米国を含む合意によって成立)のラインに沿って、科学的に(scientificに)判断された結果であったと言えます。

しかし、自らの失点を覆い隠さなければならないリーダーたちと各国政府にとっては、そんなことは華麗に無視して、WHOを“中国寄り”として批判することで、責任逃れをしたとも言えるでしょう。

これは典型的な政治による“情報工作”です。自らに都合のいい情報を意図的に流布することで、国や体制への支持拡大のための好感度アップに繋げる動きを取りますし、相手に都合の悪いことを意図的に選別して流布することで、相手の国・体制への批判拡大に繋げています。これを米中のみならず、世界的に相互に行っていますし、アメリカのトランプ大統領陣営と、バイデン前副大統領陣営の間の非難合戦を見ればわかるように、国内でも対抗勢力に対して日常的に使われています。そこにそれぞれをサポートするメディアやビジネスがくっついて、さらなる情報工作を増幅させ、いつの間にか国民・市民を欺いて、ある方向に導いていこうとしています。

その典型例の一つが、今回のCOVID-19の感染拡大を受けて、すでに“克服宣言”をした中国が世界に仕掛けている【コロナ支援】です。欧州各国からは、そのクオリティーの劣悪さ(本当かどうかは別として)を理由に批判されましたが、中国はマスクや医療物資、医療スタッフなどを世界各国に提供し、その“支援”と並行して、対象国への情報工作を行うことで(テレビコマーシャルやインフルエンサーマーケティングの手法を用いて)中国に対する好感度を巧みにコントロールしています。

例えば、EUの中でも比較的親中と言われたイタリアでも、かつては中国への好感度と言えば20%ほどだったのが、今回の“支援”とくっついてきた“情報工作”の結果、4月末の統計では7割近くが中国に対して好感を抱くという数値が出たそうです。これが、“EUから見放された”と感じているセルビア共和国をはじめとする中東欧諸国では、中国からの支援が迅速かつ大規模であったこともあり、中国への好感度がアップしているという結果が出ています。

これにはEU各国、特にフランスやドイツ、そしてすでにEUから離脱した英国でも警戒心が高まり、Before Coronaでは、中国に入れ込んでいたEUも、中国から距離を置き、アメリカの対中批判チームに乗り換えています。

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