身内が黒川氏の賭けマージャンを文春にリークした産経のお家事情

 

昨年11月中旬。法務省の辻裕教事務次官は翌年2月に満63歳を迎える黒川氏について、検察庁法の定めの通り退官する人事案をもって官邸の意向を打診した。

黒川氏自身も当然、退官を予定し、弁護士として第2の人生をスタートする心づもりだった。しかし、官邸はその人事案に反対し、黒川氏を検事総長にするよう求めた。そこから、黒川氏の定年延長閣議決定、その後の検察庁法改正案提出へとつながっていく。

官邸が自分をそこまで買ってくれる。検察内部で異論があることは承知だが、いったんはあきらめた検事総長の夢がかなえられるかもしれない。黒川氏は一時的にせよ、喜びの絶頂を味わったはずだ。

ところが、世の中、そうは甘くない。検察内部からもOBら法曹関係者からもその閣議決定に疑問の声が上がり、国会で野党のターゲットになった。黒川氏は四面楚歌とも思える逆風に見舞われ、たじろぎながら、官邸と世間の動きをうかがうほかなかった。

法務官僚として、ときの政権に役に立つよう精いっぱいがんばってきただけのこと。それが黒川氏の思いかもしれない。しかし、官邸から見ると、その忠実さこそが魅力だ。

野党に対する彼の気の利いた立ち回り、安倍首相の盟友、甘利明氏への捜査を検察にあきらめさせた手腕など、そういうところが「余人をもって代えがたい」のであり、ゆめゆめ森法務大臣が定年延長の理由として語った「重大かつ複雑、困難な事件の捜査、公判に対応するため黒川氏の経験が不可欠」なのではない。

官邸の歪んだ期待がのしかかり、定年延長に対する批判が強まるなか、黒川氏は誰にも話せない複雑な心中をかかえ、自分に対して優しい“記者クラブ仲間”とのひとときに救いを求めていたのではないだろうか。

しかし、この賭けマージャンネタを週刊文春に売る者がいようとは夢にも思わなかっただろう。通報者は「産経関係者」だと、文春は書く。「産経関係者」とは誰なのか。司法記者クラブの別の産経記者とは考えにくい。裏切りはすぐにばれてしまうので、あとが面倒だ。

将来の検事総長と麻雀をやる仲なんだと、産経記者二人のどちらかが社内で言いふらし、それを聞いた誰かが“義憤”のようなものに駆られ、文春に持ち込んだと考えられるが、それにしても日時と場所まで知っていたわけだから、ごく限られた人間に絞られる。何かのテレビ番組で「産経の内部対立がからんでいる」と、あるコメンテーターが、利いた風なことを言っていたのも、そういう想像からだろう。

たしかに経営状態の悪い産経新聞は、大阪社会部育ちの飯塚浩彦氏が2017年6月、社長に就任して以来、極端に右に寄った論調を修正する動きがみられ、そのためか政治部長だった石橋文登氏が希望退職に応じて退社するなど、社内的にも平穏な状態とはいいがたい。だが、それと賭けマージャンは関係あるまい。

検事長たるもの、レートがどうであれ賭けマージャンは厳にご法度だ。だが、検察官や記者たちがこういうたぐいの遊興を好むのも、かなしいかな現実だし、なにより、この問題を、賭けマージャンに矮小化するべきではない。世間の目がそちらに向くほうが巨悪にとっては好都合であろう。

あくまで、安倍官邸が検察幹部の人事を思うがままにしようとしたことが問題の本質だ。うかうかしていると、黒川人事に代わる次の一手を繰り出してくるかもしれないのだ。

黒川氏は、不本意な辞め方になったが、自業自得であり、官邸のくびきを逃れ、かえって精神的には一区切りついた面もあろう。

だが、懲戒ではなく訓告どまりの処分による約6,000万円の退職金支給が、官邸のダーティーな部分を知った者に対するいわば“手切れ金”という含みがあるのだとしたら、生涯わりきれぬ思いがついてまわるかもしれない。

一方、黒川氏がスキャンダルでお役御免になるや、安倍首相は、余人をもって代えがたしの評価をあっさりポイ捨てし、甘い処分についても「検事総長が決めたこと」と知らんぷりを決め込んだ。

5月21日には「桜を見る会」前夜祭をめぐる公選法、政治資金規正法違反の疑惑で、全国の弁護士や法学者ら662人が安倍首相らを東京地検に刑事告発した。さて、総理の“犯罪”に、検察はどう向き合うのだろうか。

image by: / CC BY-SA

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