もし私たちの体が10倍になったとしたら、体重は縦・横・高さの掛け算でいくと約1,000倍へと増える事になります。すると1,000倍に増えた体重を支えるだけの骨、腱、内臓、そして筋肉を維持しなくてはならず、そこへのメリットは到底思い浮かびません。
ましてや人間は知能の発達により、捕食ではなく共存して集団を作る事で生存確率を高めていますから、むやみに大きくなる必要はないのです。
ご質問の件の筋肉もこのような適応と無縁ではありません。私たちの体は生存していくのに最適になるように適応を続けていますから、筋肉は必要不可欠であると同時に過度には必要無いと言う絶妙なポジションに置かれている気がします。
筋肉が必要である事は誰も疑う余地がありません。動くこと自体が、筋肉がなくては出来ないのですから。しかし筋肉は非常にエネルギーコストの高い器官でもあります。今のように飽食の時代においてはエネルギーの材料の心配はしなくて済みますが、人類のほとんどは飢餓の歴史であって、食べ物が不足している状態においてのエネルギーの高コストは悪と言ってもいい存在です。
また大量のエネルギーを作り出すためには、その過程における負担も大きくなります。代謝にかかわる様々な成分を常に作り出していく必要があり、そこにもまたエネルギーを使わなくてはならないという、高コストのスパイラルに入っていくのです。それが故に、筋肉は必要以上に大きくならないように、合成と分解の因子の綱引きがバランスを取っています。そしてそのバランスは質・量ともに分解に優位になっているのです。
では筋肥大を諦めるしかないのかと言われれば、そうではありません。あくまでも負荷に対する適応で進化をしていますから、筋肉に対して大きくならなくてはいけない理由を与えてやればいいのです。
例えば地上で生活する限りは常に重力という負荷を感じています。つまり重力という負荷に耐えられる肉体でなければ、生存はできないわけです。もし重力が増大しているというようなメッセージを筋肉に送り続ければ、それに適応しなくては生存が出来ないと判断をして筋肥大が起こるでしょう。ウエイトトレーニングは、まさにそのメッセージだと思います。
仮に短時間でも扱う重量を考えれば強烈なメッセージとなるはずですから、ある程度の頻度をもって継続していけば、筋肉は大きく強くなるメリットが大きいと判断して適応していってくれるのです。
誰もが徐々に老化が進みますが、その中でもメッセージに対して最後まで的確に反応をしてくれるのが筋肉だと思っています。だからこそ筋肉がもっとも最後まで成長してくれる器官であり、また筋肉がしっかりと働いているということは、自らの意志で動くといった、生命を活性化する基盤でもあるのです。
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