2)バイデン政権の対中政策
では、具体的にバイデン政権の対中政策はどうなるかということでは、7月21日に民主党の政策綱領のドラフトというのが出回りました。ロシアなどがネット上で暗躍する時代に、この種のドラフトというのをどこまで信じていいかは分かりません。一応内容は見てみましたが、あんまり練られてはいませんでした。
- 対中政策はあくまで国益に沿って行う。
- 台湾防衛、南シナ海問題などでは譲歩しない。
- 日本、韓国、豪州などとの同盟関係は強固なものに戻す。
- 中国とは信頼関係をベースに交渉する。
- 中国との協調により北朝鮮への核拡散を阻止する。
というような内容で、極めて教科書的で深みがありません。まずオバマ時代の対中関係に戻しつつ、貿易ではやや国内雇用を意識したシフトを行う、その程度の内容に留まっているからです。
もう少し掘り下げた内容としては、戦略国際問題研究所(CSIS)のウィリアム・レインシュ(シニア・アドバイザー)が大々的に掲げている「民主党の通商政策」があります。これは全3部構成の大作で、
- 第一部…通商はウィン・ウィン関係。労働者にも国際分業のメリットを説明して、トランプ時代の破壊を修復する。
- 第二部…WTO、TPP、EUなどを活用して国際貿易の開かれたルールを強化し、最終的に中国を良き方向に導く。
- 第三部…中国は変わらねばならぬ。トランプのような喧嘩腰ではなく、バイデン政権は信頼を大切にしたアプローチで、中国の改革を促す。
という内容となっています。なかなか読ませる文章ではあるのですが、結局のこところは美辞麗句の羅列であることは間違いありません。要するに「グローバル経済は米国の国益」ということと、「中国とのウィンウィン関係」はあるんだという、ブッシュ、オバマの16年を踏まえた内容になっています。
ということで、整理しますとまず、ペンスドクトリンは実は民主党の対中政策とそんなに変わりません。その一方で民主党の対中政策は、グローバル経済の中での国際分業を前提にウィンウィン関係を目指すというオバマ路線の延長から逸脱するものではないと思います。
問題は、そうした認識は「甘い」のであって、その甘さがかえって中国との関係を悪化させるとか、中国に誤ったメッセージを送る、つまりより強硬な覇権主義を許すことになるのかという部分です。
けれども、経済の実体というのは、2020年のコロナ危機下でも国際分業に強く依存しているのは間違いありません。多少日程は狂うかもしれませんが、今年の9月から10月には「iPhone12」は発売されるでしょうし、その最終組立は100%中国になると思います。米国の自動車販売は非常に厳しい状況ですが、例えばGMの場合、企業として延命するかどうかということでは中国における販売が重要という事実は変わりません。
ある意味では、トランプやペンス、ポンペオは、政治的な芝居のためにそうした事実に目を背けていたわけで、結局はそこに何も手を付けることはないままに、政権から放逐される可能性があるわけです。となれば、穏健なものとはいえ、バイデン路線の中で、中国との新しい関係が模索されるというのは、それはそれで自然な流れなのかもしれません。
唯一残る問題は、そうは言っても人権と通商、軍事という3つの領域で、トランプと習近平が作ってしまった二国間の紛争については、どう収拾するか、そこには相当なハイレベルの知恵が必要ということです。バイデンにその交通整理や理念的な司令塔ができるかは、かなり不安が残ります。
そこで出てくるのが人事問題です。直近に迫っている副大統領候補人事、そしてその後の外交アドバイザー、通商関係のブレーン候補などの人事に注目していきたいと思います。
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