バイデン氏が米次期大統領になれば、中国がさらにつけ上がる理由

 

問題は外交です。特に外交の中でも最大のテーマとなるであろう、中国外交をどうするのか、これがまだ不透明となっています。

そんな中で、読者の方から以下のような質問をいただきました。

「ペンスドクトリンについてバイデンや民主党有力議員は何か公式にコメントしましたか? 同様に、今回のポンぺオ演説に関してはどうでしょうか?」

さらに、

「『バイデン政権』チームは対中政策を未だ明示していないと思いますが、どうでしょう? また、明示がないなら暗示するデータはありますか? 民主党系シンクタンクで、注目すべき大戦略を出しているところはありますか? 」

極めてシャープ、また時期的にも非常に的を得たタイミングでのご質問と思います。今回はこれにお答えする中で、バイデン政権の対中政策、そして外交全般についてを占って行こうと思います。

1)ペンスドクトリンとポンペオ演説

まず、ペンスドクトリン、ポンペオ演説についてですが、この2つは政治的には非常に重要です。まずペンスドクトリンというのは2019年の10月に行われたスピーチ、そしてポンペオ演説は先週の7月23日に行われたものです。

内容は単純です。ペンスドクトリンは「中国における人権問題、知的所有権侵害問題を、通商交渉に絡める」というもの。そしてポンペオ演説は「習近平政権を問題視すると同時に、ニクソン以来の対中宥和政策に疑問を投げかける」という内容です。

いずれもショッキングな内容ですが、やや意味合いが違います。ペンスドクトリンについては、そもそも中国との「政冷経熱」と言いますか、「経済については双方にメリットのあるパートナー」だが、「政治については特に人権等で価値観を共有していない」というのはアメリカの対中国観としては確立されたものだったからです。

そうしたズレを前提に、例えばブッシュ時代の「江沢民・胡錦濤との蜜月」というのは、共和党本流にありがちな経済やトップ外交は利害計算で行う、従って人権外交などのカネにならない理念的なことはやらない、という外交であったわけです。

ペンス演説はそうではないとしています。というのは、具体的には「国内雇用を考えた保護主義」にプラスして理念的な「人権外交もやる」というのです。勿論、トランプ流の右派ポピュリズム、ナショナリズムの文脈から飛び出したものではありますが、内容としては民主党の対中外交に近いと言えます。ですから、共和党としては異質だが、オール米国としては、そんなに異質ではないわけです。

一方のポンペオ演説については、これはかなり過激です。また、誇り高い中国共産党にも、国家主席の権威にも徹底的に砂をかけるようなことを言っています。更にいえば、ニクソン、キッシンジャー以来の信頼関係も捨てるようなことを言っていて、これは異例です。

ポンペオ演説ですが、これは短期的な政治取引の道具として「使い捨てる」種類のスピーチであると思います。米中相互に紛争の回転を増して行って、それぞれの国内政治における政権の求心力補完に使う、それ以上でも以下でもないと思います。この無茶な演説と一緒に、ヒューストンと成都における在外公館閉鎖合戦が起きているわけですが、これも茶番です。コロナで人の行き来が止まっている中では領事業務など殆どないわけで、別に双方痛くも痒くもないのです。

ポンペオ発言の粗暴性についてですが、例えば中国サイドで習近平政権が相当に動揺していて、共青団の勢いが増しているとして、その動きに乗じて習近平を追い詰めるために、あえて強いことを言った、そんな可能性もあると思います。ですが、中国常務委員会内の複雑なポリティクス、そして長老等の動きを考えると、そんなポンペオのようなチンピラの一言で動くような人々ではないことは簡単に推測できます。

ですから、中国の政権中枢向けというよりも、トランプとともに沈むだけのポンペオとして、ある程度は世間に名前を売って忘れられないようにしようという、米国国内対策の発言、それに加えてもしかしたら中国との罵倒合戦が相互に政権の利益になれば、という話と理解できます。

そんな中で、NYタイムスやワシントン・ポストなど、主流派のメディアの論評にしても、民主党政治家の論評にしても、表面的なものが目に付きます。反中の世論というのは、相当強くなっていますし、ペンスの言い分にしてはそもそも民主党の言ってきたことであるし、ポンペオの言い方は粗暴だけれども中国寄りと言われることを覚悟してまで叩くほどのものでもない、そんな計算が自然に働く中ではそうなるわけです。

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