ホンマでっか池田教授が探る「物々交換」の未来。金と格差はなくせるか

 

いずれにせよ、現在の貨幣の機能は、1交換手段、2価値尺度、3価値の保蔵手段だということは確かである。しかし、機能面だけからでは貨幣経済が貧富の差を拡大する原因を突き止めることは難しく、貨幣が持つ本質的な性質をまず考えなければならない。フォン・ヘーゲンは貨幣の性質として1貯蔵可能性、2交換可能性、3無名性を挙げている。

この中で、機能面から見た貨幣の性質で最も重要なのは交換可能性で、他の2つは無くとも、これだけで貨幣として機能する。しかし、資本主義が存続するためには残りの2つの性質も不可欠である。その果てに、少数の富裕層と大多数の貧困層が出現する。無名性は誰が使おうとどんな手段で手に入れようと、1000円は1000円ということで、貨幣に広範囲な流通可能性を与えた半面、手段を択ばず、儲かればよいといった非倫理的な心性を助長した。

最大の問題は貯蔵可能性である。資本主義は、禁欲的に労働に励む精神から始まったというのがマックス・ヴェーバー『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』の主張である。禁欲的に労働に励んだ結果、利潤を得たのであるから、利潤の獲得と利潤追求の正当性は肯定されるべきだ、というのが資本主義の精神だ、というわけだ。儲けた金は貯蔵可能でそれを元手にさらに儲けることができる。かくして資本主義は金儲けとお金の蓄積を最大の目的とする装置となったのである。

利潤を最大化するには製品を生み出すコストを最小にしなければならない。そのためには、労働者の賃金を抑え、一次生産者(農業や漁業に従事している人)から仕入れる生産物を買いたたく必要がある。物々交換は資本家の介在する余地がないから、資本主義を潰す極北の方法である。貨幣が機能しなくなれば、資本主義は潰れる。しかし、物々交換は物を生産できる人々の間でしか機能しないので、都会で労働者として暮らしている人々には無縁なシステムである。

そこで、行き過ぎたグローバル・キャピタリズムを多少とも制御するために、貯蔵できない貨幣を使うことを考えよう。株式会社eumoを立ち上げた新井和宏さんは電子地域通貨eumoという通貨を考えて、2019年の9月から実証実験をスタートさせた。この貨幣がユニークなのは貯められない(基本3か月経つと使えなくなってしまう)ことだ。貨幣は貯められるので、多くの人はお金を貯めることを目的にしてしまう。物と物との交換のための道具だったものが、いつしかお金が一番大切といった倒錯に陥ってしまったのだ。(メルマガより一部抜粋)

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