朝日新聞の怪文書を読解してわかった「日米基軸」という幻覚の正体

 

田中明彦座長の研究会

調べると、朝日新聞が運営するウェブサイト「論座」に、藤田編集委員によるこの提言を紹介解説した長い記事があり、上記の新聞の記事はそこへの呼び水だったらしい(その割にはウェブへのリンクも何もないのが奇妙だが)。そのウェブ記事を読んで、ようやく「政策研究大学院大学を中心とする産学連携の有識者グループ」というのが、同大学の田中明彦学長を座長とする「インド太平洋協力研究会」であり、それには同大学の教授陣だけでなく他大学やシンクタンクの学者、経団連や東京商工会議所の国際協力部門の長がメンバーとして、また外務・財務・経産・防衛の各省関係者もオブザーバーとして、参加していることが判明した。

ということは、これはかなり大仕掛けというか、安倍政権時代の「インド太平洋」がほとんど「掛け声」だけに終わっていたことを反省し、これをベースにしっかりとした国家戦略を策定すべきだと新政権に提言しようとする一大プロジェクトとして仕組まれたものらしい。

しかし、藤田編集委員のこの解説を読んでも、本質として中国包囲網である「インド太平洋」がどうして中国を含む軍縮の枠組みに接合していくことができるのかは、理解することができない。となると、これはもう提言の原文を読むしかないわけで、政策研究大学院大学のサイトにアクセスすると、「ニュース・イベント」の10月29日の項に同提言を官邸及び外務省に提出したことが記され、そこから全文をダウンロードすることができる。で、結論を言うと、全文を読んでもやっぱり分からない。ここではA4で20ページに及ぶ全体を紹介するわけにはいかないので、1ページ目の「要旨」のみを文末に資料として掲載するが、関心がある読者は是非自分でダウンロードして吟味して頂きたい。

政策研究大学院大学・政策研究院「インド太平洋協力研究会」  インド太平洋協力に関する日本政府への政策提言について

枠組みがゴチャゴチャ

これは壮大な地域的な安全保障と経済協力のための枠組みの提言なのだから、まずそれにふさわしい資格要件を持った参加国はどこどこなのかがはっきりしないと話が始まらない。下に引用した要旨ではそのことは明記されていないが、元々の安倍の提唱は「自由、民主主義、基本的人権の尊重などの価値を共有する」として日米豪印の4角形が骨格となるというものだった。この提言でも、その4カ国が中核と想定されているらしく、「サミットプロセスを新たに創設」することが提言されているが、その後にすぐ「英国、フランスもメンバーに加えることも検討すべき」と付け加えている。なぜ英仏で独伊などは無視されるのか。またサイバー・宇宙空間に関する対話・協力に関しては「日米豪印英」となって仏は入っていない。

他方、域内で最重要の存在と思われるASEANについては「連携」の対象で、参加メンバーではないらしい。連携相手としては「EU、カナダ、NZ等」も挙げられている。ところが経済・貿易面となると「日ASEANの枠組み」が基本で、それに「インド、豪州等を加え」ることになっている。さらに、韓国についてはどうも最初から参加も連携も考慮外のようである。

それでいて、中国が中距離弾道ミサイル・巡航ミサイルなどを増強していることに鑑みて構築すべきは「米中露等が参加する軍縮・軍備管理の枠組み」であるということで、ここでは中露が入ってくる。しかし、中国と並んで短・中距離ミサイルとその巡航化・多弾頭化をむしろ熱心に進めてきたのは北朝鮮であり、その扱いはどうなるのか。

私は、このように概念的にも論理的にも整理がつかないまま、この問題ではこことここ、あの問題ではあそことあそこというように枠組みを流動させてしまうような議論の仕方は、「戦略」としてお話にならないと思う。

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