法律で守られたはずの正社員を次々クビにする日本企業の恐ろしいカラクリ

 

クビにも「3つの種類」がある

一般的に「クビ」と言われる「解雇」はそもそも、会社の都合によって従業員との雇用契約を解除することだ。そしてその原因によって、「普通解雇」、「整理解雇」、「懲戒解雇」に分けられる。

・整理解雇

経営不振による合理化など、経営上の理由に基づく人員整理として行なわれる解雇。いわゆる「リストラ」である。

・懲戒解雇

会社の規律や秩序に違反した従業員に対して懲戒処分として行なわれる解雇。違反理由としては犯罪行為や職場の規律違反、業務命令違反、機密漏洩などがあり、懲戒処分としては、戒告、譴責、減給、停職などがある。懲戒解雇はこれら懲戒処分のうち最も重いものである。

・普通解雇

上記以外の理由で、労働能力の低下や、就業規則に定める解雇事由に基づいて行なわれる解雇。

突発的に発生する地震や台風、疫病といった天災の影響により企業経営が苦しくなったとしても、その改善のために整理解雇しようとしても裁判では無効とされてしまう可能性がある。それはあくまで解雇の必要性があるというだけで、その他に「解雇を回避すべく努力したかどうか」、「解雇対象の人選は合理的か」、「手続に妥当性があったか」といった要件を満たす必要があるのだ。「社員全員の給料を引き下げた」「解雇せずに配置転換することで対応しようとした」など、取れる手段をすべてとったうえで、それでもだめだったというくらいの合理的な理由がなければならない。(詳しくは次回述べる)

また、「個人的に気に入らない」「営業成績が悪い」といった理由だけだと「合理的な理由」にはならない。「成績が期待値以下であることを本人に伝えて努力を促し、外部研修を受講させ、上司や先輩も商談に同席するなどのサポートを半年間にわたって継続した」というくらいの、改善に向けた会社側からの努力姿勢があることが前提で、かつ個人の恣意的な判断が加わらないことが条件になる。

景気が良くて求人も多い「売り手市場」の時代であれば、比較的容易に再就職先も見つかるため、不本意な解雇だとしても新たな転職先へと気持ちを切り替えて臨むこともできる。しかし今のように経済が停滞し先行きが見えない状態では、現職と同等以上の条件で再就職先を見つけることは困難となる。必然的に従業員は今の会社にしがみつこうとするし、労働法にまつわる知識も広く知られるようになっている関係上、泣き寝入りせずに法的手段に訴え出てくる可能性もあるだろう。

場合によっては外部の合同労組(ユニオン)の力を借り、団体交渉に持ち込まれるケースも想定される。そうなれば長期にわたって交渉が続き大きな負担となるし、法的には解雇無効となることが多い。となると、本来勤務していた場合に支給すべき金額に加えて、割増の付加金まで支払いを命じられることになるリスクもあるのだ。

解雇は口頭でも成立し、実質的な解雇規制は厳しい。しかし、実際にリストラが実行できている会社は確かに存在している。そのカラクリは、「解雇」ではなく「退職勧奨」をする、という点にあるのだ。整理解雇=会社都合退職には先述のとおり法的な基準が厳しいのに対し、退職勧奨=自己都合退職を促すことについては、それがよほど執拗なものでなければ特段の縛りはないため、実行へのハードルが低いことが特徴である。

辞めさせたい従業員に積極的に自己都合退職に追いやる手法のひとつが、人道的に容認されるものではないが、実際に存在し、かつしばしば報道される「追い出し部屋」である。業績悪化した大手企業の事例が採り上げられることが多いが、ニュースにならない中小企業でも数多く存在していると言われる。

その手法は、会社が募集する希望退職に応じない従業員や、戦力外のリストラ対象となった従業員を、単純労働を強いたり、自分自身の出向先や転籍先を探すことを仕事としたりするような部署に異動させ、自主退職せざるを得ないように仕向けるというものである。表向きは単なる「部署異動」であるから、会社としては「人事権を行使しただけ」と説明できるし、法的にも認められることだ。ただし、追い出し部屋行きを命じられた従業員側が不服として裁判になった場合、その目的に問題があったり、労働者に大きな不利益があったりすると、権利の濫用として無効になるケースがある。

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