【書評】新型コロナと戦う鍵は、100年前のスペイン風邪にあった

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年末から年始にかけて日本国内も新型コロナウイルス感染者数が急増し、医療崩壊を迎えるのも時間の問題といわれる昨今ですが、我々はこの危機をどう乗り越えていけばいいのでしょうか。今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』では編集長の柴田忠男さんが、 数々の疫病を乗り越えてきた歴史から学び、いまを生きる知恵を対談形式で論じる興味深い一冊を紹介しています。

偏屈BOOK案内:出口治明・鹿島茂『世界史に学ぶコロナ時代を生きる知恵』

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世界史に学ぶコロナ時代を生きる知恵

出口治明・鹿島茂 著/文藝春秋

文春ブックレット。近ごろ稀に見るお粗末過ぎる装幀である。「カギは昭和おじさんの文化からの脱却にあり」とかいうキャッチフレーズ(?)がオレンジで配され、二人の並ぶ(合成か?)モノクロ写真にもオレンジが被さる。72歳の二人の視線はバラバラで、一人は横目遣いのにやけ顔。ありえない!みっともない。とにかく文字の配列や空間のとり方が、ハンパなく拙劣なのである。

2020年4月、7月、8月「週刊文春」で掲載された3回の対談に大幅な増補を施したものだという。本文はとても読みやすい。新型コロナ対策において、あまり政府を批判してもしょうがない。政府の専門家を信じて、右往左往しないのが一番いいと、二人の意見は一致する。新型コロナウイルスと戦うにあたり、常に参照すべきは、およそ100年前に世界的に大流行したスペイン風邪だという。

日本のスペイン風邪の流行は1918(大正7)年から1920年まで三波にわたり、死者は関東大震災の10万人強を超える40~50万人とみられる。最初の感染者はアメリカから出たから、本当はアメリカ風邪だったのに、第一次世界大戦の交戦国はみなこの新型インフルエンザの流行を発表せず、中立国だったスペインでの流行が世界中に報じられ、感染源のように思われ不名誉な名前が歴史に残った。

戦争中の軍隊は、病原菌やウイルスにとっては最大のクラスターになっている。第一次世界大戦の独軍と英米仏軍が塹壕に入って睨み合っていた西部戦線では、両軍とも半数以上がスペイン風邪に感染した。狭い塹壕の中は「究極の三密」だ。どの戦争でも歴史上のパンデミックで病原菌やウイルスの温床となったのは、兵営と刑務所。戦争をしないうちに病気やトリアージ(同時に多数の患者が出た時に、手当ての緊急度に従って優先順をつける)の執行で死者が出た。

スペイン風邪の第二波は名古屋、大阪、兵庫へ。興味深いのは、どの地方でも最初に倒れるのがなぜか郵便局員であること。ウイルスが郵便物で運ばれた?第一次世界大戦を実質的に終わらせたスペイン風邪とともに、世界史を変えたパンデミックは14世紀のペストだ。中央アジアで発生して、モンゴル帝国滅亡の原因となり、ヨーロッパに蔓延、西ヨーロッパの人口の1/3から1/2が死んだ。

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