明日死ぬかも知れない状況では、逆に今の人生の「その日を楽しめ」という享楽的な考えからが生まれる。これがルネサンスを準備する。ボッカチョ『デカメロン』にその雰囲気が描かれていて、ペストの症状や伝染の様子も分かる疫学的にも貴重な史料だそうだ。ルネサンスはギリシア・ローマ文明の復興ということになっているが、キリスト教文明との最大の違いは性愛の肯定だ。
そこから近代が始まった。疫病が人間の考え方の根底を変えてしまった。ルネサンスがなければ宗教改革も起こらず、ジョン・ロックもパスカルも、デカルトも生まれなかった。ということは、合理主義も生まれなかった、ということになる。現実問題として、人口が1/3から1/2も減っているのだから、性愛を肯定しないと人類は滅んでしまう。これは自然の摂理でもあるわけだ。
人類全体の集団としての知恵である。性愛の肯定というのも、自分たちで考え出したわけでなく、種としての命令が来ていたのだろう。死亡率と出生率には密接な関係があり、いま日本は少子化で困っているが、出生率が下がるのは死亡率が高いからだ。このあたりは人間全体の種としての思考が働いているのではないか。といったディープで興味深い対話が続き面白いのなんの。装幀がトンデモだから、本文92ページと薄い本だからと、舐めていてすいません。いい意味でトンデモ級の対談本であった。
編集長 柴田忠男
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