【書評】感染症の危機も。増えすぎた野生動物に殺される日本人

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かつては絶滅が心配された日本国内の野生動物たちが、一部を除いて激増しているという事実をご存知でしょうか。今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』で編集長の柴田忠男さんが取り上げているのは、そんな「増えすぎた野生動物」による深刻な被害を紹介し、害獣への警戒と対策を呼びかける一冊。都市部に住む人であっても、野生動物の侵攻はもはや他人事ではないようです。

偏屈BOOK案内:田中淳夫『獣害列島 増えすぎた日本の野生動物たち』

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田中淳夫 著/イースト・プレス

かつて日本の野生動物は「滅びゆく存在」だった。「このままでは日本から野生動物は消えてしまう」と危惧されていた。それから数十年。「絶滅寸前」「減少の一途」だった野生動物はどうなったか。

じつは、野生動物は明らかに“異常なほど”増えている。それも多くの種類が、山間部だけでなく都会でも。

2018年に国連に出された報告書によると、現在地球上で約100万種の動植物が絶滅の危機に瀕している。だが日本では、一部の野生動物が生息数を大きく膨らませており、もたらす被害が頻発している。いわゆる「獣害」だ。

とくに農作物被害が多く、その額は年間1,000億円以上だとする声もある。それに対する捕獲頭数も年々膨れあがり、シカ、イノシシだけで100万頭以上にのぼる。

獣害は農林作物の被害や人身事故だけでない。草木が過剰に食われて植生を劣化させられる。外来種など一部の動物の増加は在来動物の生息を圧迫し、感染症をもたらす。被害の多くは動物の持つ病原体が人間にうつることから始まる。

新型コロナウイルスもそのひとつだ。今まで言われてきた「日本の自然は破壊が進み、野生動物は絶滅の危機に陥っている」説はもはやまったく通用しない。

人間は刻一刻と深刻さを増している野生動物の侵攻について、もっと強く認識しなければならない。この本では、何よりも日本の自然が大きく変わっていることを警告し、異常に増え過ぎた野生動物に対して人間はどう対処しているのかをレポートする。

「人間は動物の住処を奪っている」と思っている人は多いようだが、実際はむしろ「動物が人間の住処を奪っている」のだという。

中見出しをいくつか並べてみよう。列島全体が「奈良公園」状態、コンビニ前にたむろするイノシシ、寝たふりできないクマの激増ぶり、レジ袋片手に冷蔵庫を荒らすサル、鳥獣被害は1,000億円以上?森林を草原にする知られざる破壊力、コロナ禍は獣害!人獣共通感染症の恐怖、飽食の時代を迎えた野生動物たち、期待される猟友会の危うい現実……どうにもこうにも問題山積である。

日本の自然は戦後大きく変化した。豊かになる方向に変わったのだ。開発で自然破壊が進んだと指摘されるが、それは視点が違う。たしかに人にとって身近な緑地や農地などが削られて、道路や工業団地などの施設に変貌したところはあるが、逆に人が手を入れなくなった土地も膨大にある。

日本列島では、あきらかに植生は豊かになった。国土の森林率は7割近く、世界最高水準である。

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