ここで、疑問点を整理しておこう。そもそも総務省は、そんなに審査が甘かったのだろうか。東北新社が子会社に基幹放送事業者の地位を移したいと言ってきたとき、理由を突き詰めなかったのだろうか。認可した2017年1月時点で東北新社の外資比率が20%を超えていたのを、小西議員から指摘されるまで本当に知らなかったのだろうか。
それら当然の疑問への、一つの回答と思われるのが、東北新社現社長、中島信也氏の証言だ。
3月15日の参院予算委員会。福山哲郎議員(立憲)の質問に答えて、中島社長はこう語った。
「2017年8月4日に当社関連3チャンネルを1社に承継しようと申請書を作成している過程で担当者が外資規制に違反していると気づいた。これはまずいということで8月9日ごろ総務省の担当部署に面談し報告した。当社の木田由紀夫が総務省の鈴木課長に相談に行ったと報告を受けている」
東北新社の執行役員で東北新社メディアサービス社長でもある木田由紀夫氏が、情報流通行政局総務課長だった鈴木信也氏に面会して、外資比率が20%をこえていたことを説明し、善後策を相談したというのである。
証言した中島氏は、カンヌ広告映画祭でグランプリを受賞した日清カップヌードルの「hungry?」や、サントリーの「燃焼系アミノ式」などユニークなCM制作で知られるクリエーターだ。副社長として制作部門を統括していたが、今回の接待問題で辞任した前社長の後釜にすわり、国会に呼ばれる羽目になった。
中島社長の証言は、外資規制違反を知らなかったという総務省の主張と真っ向から対立する。下手をすると、違反に総務省も加担していたと見られかねない。
東北新社が相談したという鈴木氏は現在の電波部長である。その人が、実は知っていましたとでも言おうものなら、接待疑惑で揺れる総務省はさらなる窮地に追い込まれる。
不都合な事実は徹頭徹尾かくし通すのが安倍政権以来の伝統である。注目の人、鈴木電波部長に出席を求めて開かれた3月16日の衆院予算委員会で、象徴的なシーンがあった。
野党の質問は当然、2017年8月9日ごろ木田氏が相談に来たかどうかに集中したが、鈴木部長は「会ったかどうか記憶がない」「そのような事案なら覚えているはずだが、覚えていない」と繰り返すばかり。ハイライトは、逢坂誠二議員(立憲)の質疑中だ。
「8月9日ごろに木田氏と会った記憶がないというのは、報告を受けた可能性はゼロではないということか」と逢坂議員が質問し、鈴木氏が答弁席に向かうため武田大臣の席に近づいた時。「記憶がない…」と低音ながらはっきりしたつぶやきが聞こえた。
鈴木氏は答えた。「そのような報告を受けた事実に関する記憶はございません」。
武田大臣は18日の衆院総務委員会で「その言葉が私の口から出たのかもしれないが、答弁を指示する意図は全くない」と釈明した。つまり「記憶がない…」の発言者は自分であると認めたわけである。
なんら意図もなく、マイクに拾われるほどの音量で、「記憶がない」などと声を出すものだろうか。逢坂議員に誘導され、記憶はないが報告を受けた可能性はゼロではないと鈴木部長が言うのを恐れ、クギを刺したとしか思えない。
鈴木電波部長は、木田氏や菅正剛氏らと親しい間柄だった。「記憶がない」が、事実を隠すための逃げ口上であることは言うまでもない。どうやら、武田大臣は鈴木部長が木田氏の相談に乗ったのではないかと思っているようだ。