京大・藤井聡教授が憂慮。頭の良い言論人さえ気づかぬコロナ自粛の不条理さ

 

そういう時にどうすれば良いか───この点について、例えば、「武士道」の神髄を語ったと言われる山本常朝の「葉隠れ」の中に、次の様な事が説明されています。

「武士にとって何よりも大切なのは、主君が過ちを犯したときに、それを諫め、ただすことである。

しかしその「忠告」にあたって何よりも大切なのは、中身の正当性もさることながら、むしろその「タイミング」である。

タイミングを間違えば、その忠告・諫言がどれだけ正当なものであったとしても、何ら役に立たない。

しかし、タイミングが合えば、さながら綿が水をひとりでに吸い上げるように、その諫言が染みこむように主君の心の中に入っていく。

武士は主君の事を真に慮るのなら、「正論」をいたずらにそれが「正しいから」というだけの理由でガミガミとがなりたててはいけない。

その主君がどんな状況で、どんな心持ちにあるのかをしっかりと慮り、その主君が聞く耳を持つとしたら、一体どういう言い方なのか、そして、どうなれば、もっとしっかりと聞き届けていただけるのかを考えた上で、諫言・忠告をしなければならない。

そうした態度こそ、実際にその主君に『役に立つ』武士なのである」

(詳しくは、「葉隠れ」あるいは、三島由紀夫の「葉隠れ入門」をご参照下さい)

いわば、人を説得しようとするならば、その人が一体どういう言葉なら聞く耳を持つのかを常時考えておかねばならない、という次第です(ちなみに当方、内閣官房参与の時、この言葉をいつも思い出し、キツく説教したくなってしまう自分を一生懸命抑えていたものでした 苦笑)。

そしてこれは、次の様な「子育て」の話とも共通しています。

すなわちそれは、聞き分けの無い子供にどれだけ分かり易く説明しても、その子供に人の話を聞こうとする気持ちが何もなければ絶対に何にも聞いてくれないが、タイミングを見計らって人の話を聞いてみたいという気持ちが僅かなりともある状況で話をすると、驚くほど素直に話を聞いてくれる、という話です。

つまり繰り返しますが、人を説得するには、「正しさ」だけでは不十分なのであり、「人の話が耳に自然と入ってくるタイミングを見計らう」ということが絶対的に必要なのです。

それを考えると、「コロナについての理性的、合理的に適正な世論」の形成を資する場合、緊急事態宣言下「ほど」最悪なタイミングはないわけです。

だから、そんな時にどれだけ正論を言おうが(正気を失っておられない、例えば本メルマガ読者等のような方を除くと)、何を言っても「ムダ」なのです。

 

日本を代表する立派な言論人ですら馬鹿みたいな状況に陥るわけですから、一般の方々において、それと同様の事が起こることは容易に想像ができるわけです。

だから人々が怯えている時には、人々の恐怖が少し落ち着くまで「待つ」のが、一番の得策なのです。

もちろんそれまでの間においては、その恐怖に基づく人々の様々な「理不尽」が蔓延し、多くの人々が不幸になり、命をすら失っていくことにもなるのであり、それを指をくわえて見ている他無くなるわけですが───無駄な事をどれだけやっても無駄に終わるしかないわけですから、忸怩たる思いを抱きながら時を過ごし、ひたすら「待てば海路の日和あり」とばかりに良きタイミングが訪れることを待つことが求められるのです(それはマジで相当辛い日々ですが…)。

したがって、この度の緊急事態宣言が解除される「まで」の間は、コロナは大して怖くないとか、コロナは普通の風邪と同じように自粛なんてしなくても収まるんだとかいう話はあまり声高に叫ぶことは避けねばならなかったわけですが、「緊急事態宣言マジック」の「魔法」が解除された「後」においては、徹底的に、そうしたコロナの真実を大声で叫び続けることが必要となるのです。

(メルマガ『藤井聡・クライテリオン編集長日記 ~日常風景から語る政治・経済・社会・文化論~』2021年3月20日配信分より一部抜粋。続きはご登録の上、お楽しみください)

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京都大学大学院・工学研究科・都市社会工学専攻教授、京都大学レジリエンス実践ユニット長。1968年生。京都大学卒業後、スウェーデンイエテボリ大学心理学科客員研究員,東京工業大学教授等を経て現職。2012年から2018年まで内閣官房参与。専門は、国土計画・経済政策等の公共政策論.文部科学大臣表彰、日本学術振興会賞等、受賞多数。著書「プライマリーバランス亡国論」「国土学」「凡庸という悪魔」「大衆社会の処方箋」等多数。テレビ、新聞、雑誌等で言論・執筆活動を展開。MXテレビ「東京ホンマもん教室」、朝日放送「正義のミカタ」、関西テレビ「報道ランナー」、KBS京都「藤井聡のあるがままラジオ」等のレギュラー解説者。2018年より表現者クライテリオン編集長。

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【著者】 藤井聡 【月額】 ¥880/月(税込) 【発行周期】 毎週 土曜日

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