技能実習制度の建前と実態
2017年に施行された「技能実習法」において、本制度の目的と理念は次のように定義されている。
【目的】
・人材育成を通じた開発途上地域等への技能、技術又は知識の移転による国際協力を推進することを目的とする。
【理念】
・技能等の適正な修得、習熟又は熟達のために整備され、かつ、技能実習生が技能実習に専念できるようにその保護を図る体制が確立された環境で行わなければならない
・労働力の需給の調整の手段として行われてはならない
しかしこれはあくまで建前的な部分もあり、実際は、日本人の採用が困難な低賃金・重労働の職場に対して、途上国の安価な出稼ぎ労働者をあてがうシステムになってしまっている面もあるようだ。
冒頭の夕張メロン農家に限らず、労働力の多くを外国人実習生に頼っている事業所は多い。たとえばホタテの水揚量で全国一を誇り、「ホタテの町」と呼ばれる北海道猿払村(さるふつむら)においても、ホタテの殻を剥く作業の人手を地元では確保できず、多くの中国人実習生で補っている。加工場経営者はメディア取材に対し、「実習生なしでは、この加工場、いや村はもうやっていけない」と述べていた。まさに実習生の存在は、理念で否定しているはずの「労働力の需給調整手段」そのものなのである。
さらに問題なのは、建前と実態の乖離のみならず、技能実習生が劣悪な労働環境によって被害を受けているケースが存在することだ。2017年には、テレビ東京系の番組「ガイアの夜明け」において、有名アパレルブランドの洋服を製造している岐阜県の孫請け工場が採り上げられ、中国人実習生の女性たちが約2年半にわたり、劣悪な環境での労働を余儀なくされている様子が全国放送された。
具体的な被害実態としては、
- 休みは7ヶ月で1日だけ
- 残業197時間で手取り13万円
- 時給400円(岐阜県最低賃金 800円)
- 約620万円の未払賃金支払いを免れるために倒産
- 労災保険を利用して国から立替払いさせる
という衝撃的なもので、当時の視聴者からは「ここのワンピースを買ってたのでショック」「中国人研修生を奴隷のようにこき使って作られた服なんて絶対買わない」と批判が殺到。会社側はその後の公式発表において、「製造工場とは直接の取引がなかったため、労務問題の存在を認識していなかった」「取引メーカーの先の縫製工場において、不適切な人権労働環境のもと製造されていた実情を知り得なかったことは大いに反省すべき点であると認識」「同工場での製造は終了するとともに、今後は製造現場について更なる関心を払い、自社商品がそのような環境下で製造されることがないように努力する」旨をコメントしている。
厚生労働省が2020年10月に発表した「外国人技能実習生の実習実施者に対する監督指導状況」によると、技能実習生が在籍している全国9,455事業所に対して労基署が監督指導をおこなったうち、実に7割以上において労働基準関係法令違反が発覚していることが明らかになっている。この「外国人技能実習事業者の7割が違反」という数値は平成27年からほぼ横ばいで、改善の兆しは見られない。
● 外国人技能実習生の実習実施者に対する平成31年・令和元年の監督指導、送検等の状況を公表します 厚生労働省
主な違反事項は、
- 労働時間(21.5%)、
- 使用する機械に対して講ずべき措置などの安全基準(20.9%)、
- 割増賃金の支払(16.3%)、
の順に多く、重大・悪質な違反によって送検まで至ったケースも34件存在している。
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