「甘利疑惑政権」状態で総選挙に突入。岸田・自民を待ち受ける茨の道

 

岸田氏と甘利氏が以前から同盟関係にあったわけではない。甘利氏は、かつて麻生政権の誕生にかかわった「NASAの会」で、中川昭一氏(故人)、麻生太郎氏、菅義偉氏と手を組み、のちに安倍晋三氏をグループに迎え入れて、権力の中枢に位置してきた。昨今では安倍、麻生両氏とともに「3A」と称されるほどの実力者である。

にもかかわらず、2016年に経済財政担当大臣を辞任して以来、甘利氏が選対委員長や税制調査会長など、メディアとの接触の少ない党の役職に甘んじてきたのには、ワケがある。

2016年1月、週刊文春がその疑惑を報じた。千葉県の建設会社から道路建設がらみの口利きを依頼された甘利事務所の秘書がURとの間に入って2億2,000万円の補償金を支払わせ、謝礼500万円を受け取った。甘利氏自身も建設業者と直接会い、2回にわたり50万円ずつ計100万円の現金をポケットに入れた。他の秘書が国交省の局長に口利きして接待や金品など甘い汁を吸っていたことも明らかになった。

甘利氏は疑惑が報じられるや、急に病気と称して長い間雲隠れをしていたにもかかわらず、やがてしれっと国会に現れた。経済財政担当相を辞任するさいの会見で、「弁護士による調査を続け、しかるべきタイミングで公表する」と約束しながら、いまだに何の説明もしていない。

この自業自得といえるマスコミ忌避で、表舞台からやや離れた場所にいた甘利氏だが、野心を刺激する政局がひらりと舞い降りてきた。

8月26日に岸田文雄氏が総裁選への出馬を表明。総裁を除く党役員の任期を「1期1年連続3期まで」「自民党を若返らせる」と宣言し、「二階切り」を印象づけた。これがプロローグだ。

この時点ではまだ、甘利氏の野心がうずくということはなかっただろう。菅首相が総裁選に出馬すると思っていたからだ。

ところが、菅氏は意外な行動をとる。総裁選で戦う岸田氏の切り札を無力化するべく、二階幹事長の交代を決め、二階派を怒らせたばかりか、総裁選前の衆院解散を画策したのだ。甘利氏は「玉砕することになる。やめたほうがいい」と菅首相に直言した。

安倍氏や小泉進次郎氏らの説得もあり、菅首相は解散を断念、打つ手を失って9月3日、総裁選への不出馬を表明した。このあと、甘利氏の心を揺るがすことが起きる。

同じ9月3日、メディアの取材に応じた河野太郎ワクチン担当相は次のような発言をした。

「総理が総裁選に出馬されないことになりました。ワクチン接種は世界最高速のレベルに達しましたが、今後必要な改革をやってコロナ対策を進めて行く必要がある。そういうなかで総理不出馬という総裁選挙ですから私自身どうするか先輩、あるいは仲間の議員とじっくり相談をし、決めてまいりたい」

事実上、河野氏が出馬を宣言したのである。世上名高い河野氏が出るとなれば、地味で知名度の低い岸田氏はかなり厳しい。河野出馬の報を受けた甘利氏が、岸田支援を決意するまでさほどの時間は要しなかった。

9月6日夜、BS日テレの『深層NEWS』に出演した甘利氏は、岸田氏に言及し、「誰の言うことにも真摯に耳を傾けるっていう姿勢の政治家としては、党内きっての人だ」「岸田さんにシンパシーを感じている」「事情が許せば応援してあげたい」と語っている。

甘利氏は、同じ麻生派でありながら河野氏の唯我独尊的な言動を忌み嫌う。なにより、福島第一原発の事故後、脱原発を唱えた河野氏が、大手電力会社と関係の深い原発推進派の甘利氏を名指しし、「次の選挙でそういう議員を落とすしかない」と朝日新聞のインタビュー記事で語ったことが尾を引いている。

河野を総理にしてはならない。甘利氏は派閥会長の麻生副総理に河野支援をしないよう、釘を刺していたに違いない。河野氏が総裁選への支援を求め再三にわたり麻生副総理を訪ねても、色よい返事を得られなかったのはそのためだ。

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