しかし、台湾の邱国防部長や3月のデービッドソン米インド太平洋軍司令官の発言は、世論喚起や海軍への予算獲得を意識したものでしかありません。中国側には台湾海峡上空で航空優勢(制空権)をとる能力がなく、1度に100万人規模の上陸部隊が必要な台湾への上陸侵攻作戦についても、輸送する船舶が決定的に不足しており、1度に1万人しか出せないのです。そしてなによりも、データ中継用の人工衛星などの軍事インフラが未整備のままなのです。
3月のデービッドソン海軍大将の発言について米軍トップのミリー統合参謀本部議長は6月17日、上院歳出委員会で全面的に否定しています。
「中国が台湾全体を掌握する軍事作戦を遂行するだけの本当の能力を持つまでには、まだ道のりは長い」
「(中国による台湾の武力統一が)近い将来、起きる可能性は低い」
「中国には現時点で(武力統一するという)意図や動機もほとんどないし、理由もない」
だからといって安心してよいという訳ではありません。手段を選ばないハイブリッド戦で台湾を内部から崩壊させる動きにも注意が必要です。それを防ぐには、台湾と日米などの連携強化と抑止力の向上が不可欠です。
そういう中で、読売新聞の記事なども中国が進めている取り組みを詳細に紹介することで読者の中国への反感を煽り、警戒心をくすぐるだけでなく、軍事インフラの整備が遅れている問題などを報道しなければなりませんでした。
空騒ぎは、間違った方向に世論を煽り立て、世論に押された政治が国を誤らせかねないことは歴史が教えているとおりです。着実に防衛力整備と同盟関係の強化を進めるうえで、空騒ぎは百害あって一利なしであることを忘れてはなりません。(小川和久)
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