歴史的大事件。中国をロシアに次ぐ「仮想敵」として認定したNATO

 

封じ込め戦略が、中国の侵攻を食い止める

中国側に「勝てないだろう」と思わせることができれば、侵攻開始を阻止することができる。

これはわかりました。ですが、既述のように、中国の軍事費は、すでに日本の5.5倍。戦闘になったら、勝てるはずがありません。では、どうすればいいのでしょうか?

仲間を見つければいい。

これを、「同盟戦略」あるいは「外的バランシング」といいます。たとえば、アメリカ政府高官は、しばしば、「尖閣は、日米安保の適用範囲だ」といいます。これ、ものすごく「抑止効果」があるのです。なぜ?

習近平が、「尖閣に侵攻しようかな?」と考えた。「日本の海上保安庁、海上自衛隊には、勝てそうだ」と考える。しかし、一番気になるのは、「米軍は動くのか?」です。米軍が出てくると、勝てない可能性が高い。そこで習近平は、側近に、「尖閣に侵攻したら、米軍は動くだろうか?」と質問します。すると側近は、「アメリカ大統領、国務長官、国防長官、大統領補佐官が、『尖閣は日米安保の適用範囲』と明言しています。かなりの確率で動くでしょう」と答える。すると習近平は、「米軍が出てくるなら、まだやめておこう」と考え直します。

なぜ、中国はこれまで、「核心的利益で固有の領土」と主張する尖閣に侵攻しなかったのか?唯一の理由は、「米軍が怖いから」なのです。

しかし、問題があります。中国がどんどん強くなることで、米中の経済軍事バランスが変化していること。つまり、中国が相対的に強くなり、アメリカが相対的に弱くなってきている。

そこでバイデン政権が行っているのが、やはり「同盟戦略」なのです。

たとえば「クアッド」があります。これは、日本、アメリカ、インド、オーストラリア。10月12日から15日まで、日米印豪の合同軍事演習が行われました。アメリカは、クアッドに、イギリス、フランス、ドイツ、さらに東南アジアの反中諸国を参加させようとしています。そして、イギリス、フランス、ドイツも参加に前向きな姿勢なのです。

「AUKUS」(オーカス)もあります。これは、アメリカ、イギリス、オーストラリアによる、事実上の「反中軍事同盟」です。アメリカとイギリスは、オーストラリアの原子力潜水艦保有を支援する。つまり、オーストラリアを強化することで、中国が強くなりすぎたアジアの「バランスオブパワー」を回復させようとしているのです。

またバイデン政権は、トランプ時代バラバラになったG7を反中で再結束させることに成功しています。6月のG7サミット共同宣言には、

我々は、包摂的で法の支配に基づく自由で開かれたインド太平洋を維持することの重要性を改めて表明する。我々は、台湾海峡の平和及び安定の重要性を強調し、両岸問題の平和的な解決を促す。我々は、東シナ海及び南シナ海の状況を引き続き深刻に懸念しており、現状を変更し、緊張を高めるいかなる一方的な試みにも強く反対する。

とあります。G7にアジアの国は、日本しかいません。それで、G7はこれまで、台湾問題、東シナ海問題、南シナ海問題にほとんど関心がなかった。ところが、G7は今年から、台湾問題、東シナ海問題、南シナ海問題に深く関わり始めたのです。

さらにバイデン政権は、トランプ時代バラバラだったNATOを一体化させることに成功しました。BBC NEWS JAPAN 6月15日を見てみよう。

北大西洋条約機構(NATO)の首脳会議が14日、ベルギー・ブリュッセルの本部であり、中国の軍事的脅威に懸念を示す首脳宣言を発表した。中国の行動は「全体にとっての挑戦」だとした。

これは、とても重要です。なぜでしょうか?NATOは、そもそも「反ソ連=反ロシア」軍事同盟なのです。つまり仮想敵はいままで、「ロシア一国」だった。それが今年から、「中国もNATOの仮想敵」になった。歴史的大事件といえます。

というわけで、バイデン政権は、「クアッド」「AUKUS」「G7」「NATO」による「同盟戦略」で、中国と対峙しています。これは、決して「攻撃的」ではなく、唯一の目的は、「アジアにおけるバランスオブパワーを回復すること」です。

つまり、読者さんの質問にあった、「(侵攻の)意志を持たせないようにする」こと。

まとめると、中国に侵攻の意志をもたせないようにするためには、「勝てない」と思わせることが重要。そのためには、「同盟戦略」で仲間をどんどん増やし、中国を封じ込めていくことが重要。いってみれば、「バイデン政権がいまやっていること」です。

皆さんもご存知のように、バイデン自身は、親中でした。しかし、優秀なブレインたちに支えられて、着々と中国包囲網を形成しています。バイデン政権の目的は、「中国共産党政府を崩壊させること」ではありません。既述のように、中国が強くなりすぎて崩れた、アジアの「バランスオブパワーを回復させること」です。読者さんのいう、「(侵攻の)意志を持たせないようにする」ことも、この戦略によって行われているのです。

もちろん、それでも中国が暴発する可能性は否定できないのですが…。

image by: Alexander Khitrov / Shutterstock.com

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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