アメリカ国防総省も恐れる、中国「サイバー民兵」10万人の脅威

 

ところで、これまで何度も台湾情勢について見てきましたが、どうしてアメリカはここまで台湾に肩入れし、そこに日本も、欧州各国も参加して、台湾を防衛する側につくのか、考えたことがあるでしょうか?

いろいろと見てみると分かってくるのですが、アメリカ(とその同盟国)は別に台湾そのものの防衛には関心がありません。また中国への嫌がらせというわけでもありません。

アメリカ政府も「台湾をめぐる現状を変える意思は全くない」と公言して憚りないのもその証拠でしょうし、アメリカが台湾のために中国に攻撃を仕掛けることもまずありません。

しかし、台湾には、アメリカも日本も、そして欧州各国も、親中を覆したオーストラリアも、失うことが出来ず、何としても確保したい“もの”が存在します。

それは、実は中国にとっても同じです。

中国については、習近平国家主席が協調するOne Chinaの構想から、核心的利益として台湾を中国に“平和的に”併合し、大中華帝国の再興というイデオロギー上の理想がありますが、中国のサイバー帝国としての地位を支え、国民の個人情報を獲得しつつ、情報操作を強化するために必要不可欠な“もの”を、何としても自らの手中に収めたいという願望が、台湾への強硬姿勢に繋がっていると言えます。

何しろ「台湾は中国の一部」という主張なわけですから、他国が内政に手を突っ込んでくるのはけしからんというのが、反論の根拠です。

ではその“もの”は何か。

それは半導体、さらには半導体のファウンドリーで、その世界的に圧倒的なシェアを誇り、中国のファーウェイの大躍進を支える心臓部を製造するTSMCが台湾にあるという事実です。

このTSMCを手中に収めることが、世界経済の覇権を握り、発展し、そして安全保障上の優位をも確実にできる、現時点での各国にとっての至上命題です。

言い換えるとTSMCと、他が追随できない圧倒的な技術とノウハウを手に入れることが、今後の覇権を握るという理解です。

アメリカもトランプ政権時代からアリゾナへの工場誘致を行い、中国から200キロほどの位置にある“半導体の心臓部”を、中国の影響が及びづらい自国内に確保したいと躍起になっています。

その方針はバイデン政権になってさらに強硬に推し進められ、何と5兆ドルの枠を予算として用意しています。

TSMCとしては、虎の子の技術とノウハウをアメリカに提供することは、自社の優位性を削ぐことになりますが、中国からの脅威を身近に感じ、それが日ごとに高まる今、米国との関係を強化することは、台湾政府にとってもTSMCにとっても、決して拒否できないオファー・要請と思われます。

それに、絶好調と言われるTSMCの収益の6割強は米国市場から得ているという現状もあります。

とはいえ、決して最先端の技術の移転は行わず、top notchの技術とノウハウは台湾の自社の要塞の中に維持する戦略を取って、技術的な比較優位性を保っていますが。

それは日本にとっても同じでしょう。多くの世界的な技術を誇るメーカーが日本には存在しますが、自動車業界、精密機械、ICTなど多部門で優位性を維持するには、今のところ、TSMCの半導体製造能力は不可欠です。SONYと組んで熊本に工場を誘致する以外に、すでに2019年から進められている東大とTSMCの共同研究を通じて、協力を強めています。

この戦略的な重要性は、政治を動かし(自民党内の半導体タスクフォース)、企業の投資を引き出し、そして何よりも、これまで対中配慮から台湾への名指しでの接近を躊躇っていた外交安全保障方針を変えて、アメリカと共に台湾防衛へのコミットメント強化を宣言するに至っています。

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