そして、これまで太平洋に艦船を派遣してこなかったドイツ、英国に至っては、最強の空母クイーンエリザベスを中心とした空母群のインド太平洋地域への派遣と展開、フランスのブリゲート艦や原子力潜水艦の派遣という、欧州外交の大きな方向転換をも促す結果を導いています。
これまで中国との親密な関係を大事にしてきたメルケル首相が引退し、ショルツ氏にバトンが渡される今、ドイツも、国内の産業界からの圧力を受けて、中国への警戒を強め、TSMCを有する台湾への接近を加速させることになります。
この対中包囲網の強化は、もちろん中国を苛立たせており、このところ中国の発言や行動はさらにエスカレートしています。同時に台湾とその仲間たちに対する情報戦もレベルアップさせているという情報もあり、台湾、そしてTSMCをめぐる対立は緊迫度が高まっていると言えるでしょう。
中国がTSMCを攻撃対象から外しているのはとても興味深いのですが、それは北京の情報筋曰く、「中国の企業だから」だそうです。
もちろん台湾有事のトリガーとなり得るのがTSMCと半導体だけというように単純化するつもりはないのですが、決して無視できない主要因ではないかと考えます。
では日本はどうでしょうか?
先述のように、台湾へのコミットメント強化を菅政権で明言し、アメリカと歩調を合わせたことで、日本の対中外交姿勢に変化が起こり、日本の外交安全保障政策も変化することを意味します。
そして岸田政権も、日米同盟を外交・安全保障の基軸とするという姿勢から、この方針を継承していますが、林氏を外務大臣に据えておくことで、中国にも気を使っているとのメッセージを送っておくことで、欧米諸国とはまた違った対中姿勢をアピールし、そのユニークな立ち位置の維持に努めているように見えます。
個人的には非常にデリケートな妙案だと見ています。
そして安倍元総理は、安倍派誕生に合わせ「台湾有事は日米有事」との発言を行って台湾に秋波を送っていると同時に、「米中間の最前線にいる国として、有志国と連携を深めつつ、地域の安全保障に貢献する」といいつつ、自らの政権下で関係改善を行った中国に対しても、微妙な気遣いが見られます。
個人的には、あくまでも米中間の緩衝材的な役割をまだ追及しているのではないかと見ていますが、それを可能とし、台湾有事が“日本有事”になってしまわないようにするには、かなりデリケートな外交的ハンドリングが必要となるでしょう。
そして、日本が非常に弱いと言われているサイバー攻撃への対応(サイバーセキュリティ対策)を迅速に高めていかないと、下手をすると、米中間での衝突のトリガーを弾くのは、日本で流されたデマということになりかねないと憂慮しています。
最後に米国政府にいる私の友人の言葉を借りると、「中国は、私たちが考えている以上に、私たちの日常に入り込み、個人情報を把握し、私たちの認識に影響を与えていることが明らかになってきた。これに今、即時に対応できなければ、もう中国のサイバーによるコントロールからは逃れられないだろう。そのスピードを弱め、かつ私たちの対応能力を確保するためには、台湾に遍在する半導体、そしてその圧倒的な担い手であるTSMCを味方に付けることが非常に重要になるだろう。それが、私たちが語る米中対立の正体であり、かつ最前線だ」とのことです。
そうすると、もしかしたら非常に緊迫していても、台湾情勢については、現状維持が最も望ましいのかもしれませんね…。それは日に日に難しい状況になってきていますが。
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