中国との対立激化で消耗 「今日の台湾」から「明日の日本」が見えるワケ

 

では、なぜ今日のリトアニアが明日の日本なのか。そのヒントはリトアニアの政界でよく使われる「対米関係は死活的な問題で、対中関係はより発展するために不可欠な関係」という言葉にある。

つまり米中関係が悪化し、立場をはっきりすることを問われたリトアニアは、「死活的」な関係を優先し反中に舵を切らざるを得なかったのだ。そして同時にリトアニア国内には、内政の視点から反中でポジションを浮揚させようとする勢力も存在する点も見逃せない。

日本のメディアの中には「台湾の民主化を支持する気概のある国」などとリトアニアを持ち上げる記事も見つかるが、生き馬の目を抜く国際政治の世界でそんな理屈が通用するはずはない。また本当にそんなことで国民の命と財産を危機にさらしたとしたら、それこそ国民に対する驚くべき背信行為だ。

つまりキレイゴトで済まない問題としてリトアニアの「台湾代表処」の設置には、当然の後日談がある。

まずは喧嘩を売られた中国の報復だ。リトアニアは代表機関に欧州で初めて「台北」ではなく「台湾」の名称を採用した。これは中国から見れば台湾の独立勢力に誤ったメッセージを送り「一つの中国政策」に公然と挑戦する行為だ。

よって「あしき前例をつくった代償を払わなければならない」(中国外務省の趙立堅副報道局長)となる。その最初の対抗策は同国との外交関係を格下げし、大使を送らず代理大使にすることだった。

といっても当初この策は「単なる政治的メッセージで有効性はない」と考えられた。中国の環球時報が「中国を怒らせた直後にアメリカから報奨双方は来週6億ドルの輸出クレジット協議」と報じたようにリトアニアはアメリカからご褒美をもらい、その反面、中国との貿易額は限られていて経済制裁の効果も薄く、中国の手詰まり感が目立った。

しかし間もなくリトアニアの周辺が騒がしくなる。中国に向けた輸出品の通関が拒否されていることが明らかになったのだ。

するとリトアニア国内で政治対立が加速し、続いてリトアニアが加盟する欧州連合(EU)諸国から中国への輸出にも影響が出始めていると騒ぎが拡大した。中国のやり方には表向きEU側も反発を示したが、一方でリトアニアのスタンドプレーにも反発は高まった。

改めて言うまでもないが、中国と国交を持つ国々は、例外なく中国を唯一の合法政府と認めた上で国交を結んできた。そこにあえて挑戦すのであれば、最悪、中国が断交に踏み切っても不思議ではない。その手前の経済制裁は当然のこと予測された反応だ。

そのためか年が明けて間もなくリトアニアのナウセーダ大統領は、代表処に「台湾」の名を冠したことは「誤りだった」と認めた。この背景にはリトアニア国民のおよそ3分の2が「現在の対中政策が誤り」だと答える民間の世論調査があったとも伝えらる。

中国問題を中心に精力的な取材活動を行う富坂聰さんのメルマガ詳細はコチラ

 

print
いま読まれてます

  • 中国との対立激化で消耗 「今日の台湾」から「明日の日本」が見えるワケ
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け