中国との対立激化で消耗 「今日の台湾」から「明日の日本」が見えるワケ

 

リトアニアの動揺を受けて、こんどは台湾が動かざるを得なくなった。台湾代表処設立決定からほどなく民進党政権は2億ドルの投資基金を設けたが、一連のリトアニアの反応を受け、年が明けるとさらに10億ドルの融資基金を設立する。ここにきて露骨な札束外交の様相を呈するようになったのである。

一方、当初は「輸出額に占める中国の割合は1%に過ぎない」とたかをくくっていたリトアニアだが、今度は対中貿易の躓きを台湾に埋めてほしいと要求するようになる。

間もなく台湾煙酒は中国が通関を拒んだリトアニア産のラム酒2万4000本を買い取り、台湾の代表機関も貨物コンテナ120個分の輸出品を引き取った。さらにリトアニア農業省が農産物の輸入を台湾に打診し、中国向けに出されたビールを買ってほしいと要求する流れが続いた。

リトアニアが語っていた「民主主義の価値観」にはっきりと値段が付く過程が晒されたのである。ここで思い出されるのは90年代、中台がアフリカなどを舞台に繰り返した露骨な札束外交である。援助の額次第で現地大使館が掲げる旗が、日々五星紅旗から青天白日旗へと変わった時代だ。

当然、漁夫の利を得たのはアフリカなど貧しい国々だが、ほどなく中台がその消耗戦のバカバカしさに気付き矛を収めていったのだった。

いみじくもこの空しい戦いが20数年ぶりに再開されたのであるが、この間、中国の体力は爆発的に充実し、台湾サイドは明らかに分が悪い。さらに対立の激化はボディブローのように国民経済を蝕み始めている。蔡英文の政権維持のための「反中のコスト」は負の循環に陥り始めたからだ。

そもそも中国軍機の台湾への接近を受けたスクランブル発信にも莫大な費用を要する。体力勝負となれば台湾はつらい。さらにアメリカからF16戦闘機を60機を爆買いするなどしても、それが中国の台湾統一を諦めさせることに役立つわけではない。むしろ中国の勢いを加速させている。

そうして国防費がかさんでゆけば、それだけ経済対策に振り向ける予算は少なくなり、域内経済は痛む。そうなればさらに政権は反中に傾かざるを得ないという負の回転が止まらないのだ。

事実、蔡英文政権は自らが野党だった時に激しく反対していたアメリカからの成長促進剤を使用した豚肉の輸入にもアメリカに配慮して踏み切らざるを得なくなった。

また、いち早くTPPに加入するためとして福島県など周辺五県産の農産物の輸入にも再開の検討を始めた。このとき、従来は「核食」と呼んで警戒していたものを急遽「福食」と言い換えたことがメディアで批判されてしまった。

こうした「反中」のためのなりふり構わぬ行動に加えて、外交関係維持のためのコストも加わるのだ。

台湾は1月、ホンジュラスから輸入する25品目に対する関税をゼロにすることを発表したのに続いて、中台の綱引きの舞台になっているグアテマラの外務大臣との会談ではコーヒーの輸入枠の拡大をさりげなく要求されたと伝えられている。

こうしたことを続けていった挙句、台湾の人々の生活に明白な影響が出たときにはじめて、この問題の根っこに対立とは何かとハタと気づくのだろうか。これが本当の「明日の日本」の姿でないことを祈るばかりだ。

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image by:Jimmy Siu/Shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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