アベノマスク“決着”も茶番か。安倍と岸田の不仲説に「プロレス疑惑」

2022.02.07
 

しかし岸田首相は就任した途端、目玉政策だったはずの「金融所得課税の強化」を早々に先送りした。言うまでもないが、金融所得課税の強化は選挙前から最大野党の立憲民主党が掲げていた重要政策。野党の政策への「抱きつき」を図り、衆院選での争点つぶしに使っただけと言われても仕方がない。

金融所得課税の見直しは、年が明けて今年1月17日にあった衆院本会議での施政方針演説にも、もちろん入っていなかった。岸田首相は21日の参院代表質問で「与党の税制調査会で議論する」考えを強調したが、要は安倍氏よろしく「永遠の道半ば」にするつもりなのかもしれない。

金融所得課税の見直しどころか、施政方針演説の中にはそもそも、分配政策らしきものがほとんど入っていなかった。唯一目についたのが「賃上げ」だが、そもそも「官製賃上げ」自体、安倍政権からの政策である。どこが「新しい資本主義」なのか、その判断材料自体が存在しない。

そもそも、昨年11月に開かれた「新しい資本主義実行本部」の初会合で岸田首相が言及した「成長と分配の好循環」は、安倍氏が首相時代から使ってきた言葉そのものだ。「アベノミクス」で経済成長を図り、その果実が高所得者層から低所得者層に「したたり落ちる」(トリクルダウン)というものであり、良くも悪くも岸田政権の政策は、アベノミクスから何ら脱却していない。

「新しい資本主義」は、見た目こそ「立憲民主党っぽく」装いながら、結局は安倍政権以来の新自由主義的政策を引き継いでいる、と言われても仕方がない。

アベノマスク問題の方も、わけが分からない経緯をたどった。

岸田政権がマスクの廃棄を決めた理由は、2020年8月から翌21年3月までのマスク保管料が、6億円と高額になっていたためだ。すべて廃棄すれば費用は6,000万円に抑えられる見通しで、鈴木俊一財務相は「損切り」という言葉さえ使っていた。

しかし、政府がマスクの廃棄前に無償配布の希望を募ると、配布希望が在庫を上回る「2億8,000万枚以上の見込み」(松野博一官房長官)に。そして、西日本新聞の報道によれば、政府はその配送料が10億円にのぼると試算しているという。すべて廃棄した場合の費用どころか、当初問題になっていた高額の保管料を上回る費用がかかることになってしまったわけだ。

その中で一人嬉しそうなのが安倍氏だった。松野氏が記者会見で「2億8,000万枚」という数字を公表する前に、安倍氏は自身の派閥の会合で「廃棄するという決定だったが……」と前置きしつつ、嬉々として配布希望の枚数を語ったという。

「アベノマスクは無意味ではなかった」と強弁したい安倍氏が、結果としてほくそ笑むことになった。そしてそのために、岸田政権は当初の保管料以上に多額の税金を投入する見通しとなったのだ。

一体何をやっているのか。そこまで安倍氏に忖度する必要があるのか。

政局ウオッチャーの見る岸田・安倍関係は、少し違うようだ。「岸田首相は安倍氏の望む人事を覆すなど、安倍氏との決別を目指している」「安倍氏は岸田首相が自分の思い通りに動かないことに不満を抱いている」。そんな言説が多数飛び交う。

筆者は自民党内の権力争いに興味はない。しかし、これらの言説には「本当なのだろうか」と疑問を抱いている。

この夏の参院選を前に、安倍氏は自ら言動に大きな注目を集めさせて、保守派の支持層を引き寄せる。一方で岸田首相は「安倍氏からの脱却」を演出することで中道・リベラル層を引きつけ、野党への支持を引き剥がす。

岸田首相と安倍氏は、あうんの呼吸でそのための「プロレス」を演じているだけなのではないか。筆者はそんな気がしてならない。

image by: 岸田文雄 - Home | Facebook

尾中香尚里

プロフィール:尾中 香尚里(おなか・かおり)
ジャーナリスト。1965年、福岡県生まれ。1988年毎日新聞に入社し、政治部で主に野党や国会を中心に取材。政治部副部長、川崎支局長、オピニオングループ編集委員などを経て、2019年9月に退社。新著「安倍晋三と菅直人 非常事態のリーダーシップ」(集英社新書)、共著に「枝野幸男の真価」(毎日新聞出版)。

print
いま読まれてます

  • アベノマスク“決着”も茶番か。安倍と岸田の不仲説に「プロレス疑惑」
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け