この矛盾を解決する手段として、使用済み核燃料を再処理し、プルトニウムを取り出して再び使うというサイクル計画が編み出されたが、かなめとなる高速増殖炉「もんじゅ」の廃炉が事実上、決まったことにより、頓挫した。それでも、巨額の国費を投じて「もんじゅ」の開発を進めてきたJAEAはあきらめなかった。米国で持ち上がった高速炉計画に目をつけ、「もんじゅ」に代わるものとして、飛びついたのだ。
高速炉は空気や水に触れると激しく反応するナトリウムを冷却材に使うため、安全管理がきわめて難しい。開発先進国の英独はすでに撤退、フランスも実証炉の建設にまでこぎつけながら、結局は挫折した。米国も開発を中断した経緯がある。失敗した「もんじゅ」の知見をあてにする米国の新高速炉計画が、海の物とも山の物ともつかぬものであることは、言うまでもない。
元首相5人のEUあて書簡に対する批判キャンペーンは、高速炉への再挑戦が現実味を帯び、原発推進派が色めき立つなかで、繰り広げられた。
残念なことに、いまだに福島県産の農水産物などをめぐる風評被害や、人権問題は絶えていないようである。しかし、それを5人の書簡の内容がさらに助長するとは思えない。5人は、原発事故の怖さを体験した国の元首相として、脱原発の必要性を訴えただけである。
原発に関する高い技術があり、原子力関連産業も多い日本で「脱炭素」のため原発を活用しない手はない、というのが原発推進派の言い分だ。それなら正面切って元首相5人の脱原発書簡に論戦を挑めばよいではないか。
唯一の被爆国でありながら、先頭に立つべき核兵器禁止条約に参加せず、史上最悪の原発事故を起こしながら、性懲りもなく原発復活を画策する。核に対するこの国の政治権力の向き合い方は、なんとも不可解と言うほかない。
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image by: Twitter(@菅直人 衆議院議員(府中・小金井・武蔵野) 立憲民主党)