読売や産経が猛批判キャンペーン。小泉、細川、鳩山ら元首相5人EUあて書簡を「総攻撃」の怪

 

この動きにメディアの一部が食いつき、騒ぎ始めた。たとえば2月4日の読売新聞。

小泉純一郎、菅直人氏ら首相経験者5人が、東京電力福島第一原発事故で「多くの子どもたちが甲状腺がんに苦しんでいる」とする書簡を欧州連合(EU)の執行機関・欧州委員会に送った。(中略)西銘復興相は4日の記者会見で「誤った情報を広め、いわれのない差別や偏見につながる。適切でない」と批判。山口環境相は5氏に反論する文書を送り、抗議した。福島県内や自民党からも「誤った情報で風評(被害)が広がる」(高市政調会長)と非難の声が上がっている。

この記事だけを読めば誰しも、元首相5人が甲状腺がんの問題で欧州委員会に何らかの訴えかけをしたと判断するだろう。

産経新聞は2月7日の「主張」で、こう論評した。

首相経験者としてあまりにも軽率である。自らの言動が国際的にどのような影響を与えるのかを真剣に考えるべきだ。(中略)書簡で、東京電力福島第1原発事故の影響について「多くの子供たちが甲状腺がんに苦しんでいる」と誤った記述をしていた。専門家による国連委員会などの報告では、そうした影響は確認されていない。

「あまりにも軽率」。なにをもって、そう言うのか。甲状腺がんへの影響が確認されていないというだけで「誤った記述」と断定できるのだろうか。

原発事故前、福島県内では、年間100万人に1~2人しか甲状腺がんにかかる子供はいなかった。事故当時、8歳以下だった38万人のうち、266人がこの10年余で発症し、222人が甲状腺摘出手術を受けていることを、福島県の県民健康調査委員会が明らかにしている。小児甲状腺がんの発症率が原発事故後にケタ外れにハネ上がっている事実を行政はどう説明するのか。メディアが追及すべきはそこだろう。

しかも、5人の書簡における「多くの子供たちが甲状腺がんに苦しみ」という記述は、重要ではあるがごく一部分にすぎない。それを切り取って血祭りにあげ、あたかも書簡の全てであるかのごとく喧伝するのはいかがなものか。

メディアに煽り立てられるように、自民党の高市政調会長は2月10日、佐藤正久外交部会長とともに岸田文雄首相に会い、「輸入規制を撤廃するために努力を続けてきた方々の努力を踏みにじるものだ」と5人の書簡を非難し、風評の払拭を求める決議を手渡した。

EUに対し「脱原発・脱炭素は可能」と訴えた書簡は、こうして、風評の問題にすり替えられ、脱原発派攻撃のために政治利用されているのだ。そこには、ヨーロッパを起点に盛り上がりつつある原発新設・開発の流れを日本で食いとめたくないという“原子力村”の思惑が見え隠れする。

EUは2030年のCO2排出量を1990年比55%減とする目標を掲げており、稼働中のCO2排出がほとんどない原発を新設・開発する流れがヨーロッパで勢いを増している。英国は大型炉の建設を進め、フランスは国内で原発建設を再開することを決めた。

日本でも、菅義偉首相が20年10月26日、「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と宣言したのをきっかけに原発再稼働、新設への動きが顕著になっている。

このほど米マイクロソフトの創業者、ビル・ゲイツ氏が会長を務める原子力開発ベンチャー企業、テラパワー社と米エネルギー省の高速炉開発計画に、独立行政法人・日本原子力研究開発機構(JAEA)や三菱重工業が協力することになったが、そこにも、原発復活をねらう日本政府の意思が読み取れる。

いうまでもなく、原子力発電の最大の矛盾は、いつまでも放射能を出し続ける使用済み核燃料の処分方法が確立されていないことだ。小泉元首相らが脱原発の必要性を説く根拠はここにある。

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