プーチンか、欧米か。終わらぬウクライナ紛争「真の悪者」の正体

 

4つ目の現状の変化の兆しは、中東諸国と同じような動きを見せている【トルコの動き】です。

今回のウクライナ紛争においては、ロシア・ウクライナ双方と“話すこと”ができる数少ない存在として、和平協議のホストを買って出て、外交上のメインプレーヤーグループへ返り咲きたいと思惑が見えます。

肝心の和平協議については、対話のチャンネルをキープしているという点では、以前【無敵の交渉・コミュニケーション術】でも触れたとおり、大きく評価できますが、和平協議自身は、まだ“機が熟していない”ため、今のところ物別れに終わっています。

和平協議については、トルコは決してこの“仲介者”としてのステータスを投げ出さないことが非常に重要になるでしょう。

予てより、エルドアン大統領はNATOの同盟国でありつつ、ロシアとの関係改善も模索するというギャンブルにも思われる外交姿勢・戦略を取っていますが、その姿勢の継続によって、ウクライナ戦争がどちらに転んでも、トルコとしては大丈夫なようにしっかりとリスクヘッジを行っています。

EU加盟問題を通じてわかった欧州の“本音”と、中東諸国にとってのトルコの特別な地位、そしてNATO軍の核弾頭を国内に持ち、同時にロシアのS400まで配備している特殊な国は、時々エルドアン大統領が漏らすように、オスマントルコ帝国の再興をイメージした活動をしています(帝国の再興という夢は、プーチン大統領の大ロシア帝国とも、習近平国家主席の大中華帝国構想にもつながります)。

面白いのは、カショギ氏殺害問題でサウジアラビア王国のMBS(モハメッド・ビン・サルマン皇太子)の弱みを握り、圧力をかけ続けていたのに、今回、あっさりと被疑者をサウジアラビアに引き渡し、審議(裁判)権をサウジアラビア王国に譲った動きです。これは先ほどお話しした中東での結束と、「いまは嵐が過ぎ去るのをじっと助け合って待とう」という戦略に繋がっているようです。

最後となる5つ目の変化は【中国の台湾侵攻に対するオッズ(確率)】です。

中国政府は、今回のウクライナ戦争(情勢)から意図的に距離を取っています。理由はいくつか考えられます。

例えば、【たまたま開戦が北京冬季五輪の閉会式とパラリンピックの間だったから、そちらに忙殺されている】ことにできたからというポイントです。

これには、習近平国家主席が、2月4日のプーチン大統領との会談時に、プーチン大統領の意図・本心を、思い込みから読み違えたことを“隠す”意図があるようです。

それに加えて【実際に国際的な対応で主導権を取るタイミングを逸した】という事情もあるようですが、これはまあ建前でしょう。

より重い理由があるとしたら【今回のロシアへのウクライナ侵攻への賛否の表明は、確実に“国内”で抱える新疆ウイグル自治区、チベット、そして香港問題に飛び火する】という懸念です。

ロシアに対する非難の輪に加わってしまうと、確実に係争地となっている新疆ウイグル自治区などでの蜂起が起き、気が付けば迅速に欧米主導の対中非難の輪が広がります。

逆に明確な指示と連帯をロシアに対して示した場合は、国際社会および欧米諸国との間に存在する緊張の高まりは、決定的な状況になるでしょう。

ロシア・プーチン大統領が行ったウクライナへの攻撃“理由”に一定の理解を示して、国際社会が課す対ロ制裁に反対する立場を取っていますが、これは裏返すと【中国におけるintegrityの綻びを隠し、再度、秋の共産党大会に向けて、国内の統一性と共産党一党支配の基盤の強化】を意図しているのではないかと考えます。

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