プーチンか、欧米か。終わらぬウクライナ紛争「真の悪者」の正体

 

3つ目の状況の変化は【中東諸国が選択した実利・現実主義体制の構築】です。

この動きは、アメリカにおけるシェール革命によって、中東地域に対するアメリカ外交・エネルギー安全保障上の重要性が下がった頃から進んでいた傾向でしたが、今回のウクライナ戦争を機に、一気に加速したと思われます。

この場合の“中東”は、実際には西は地中海岸のイスラエルからペルシャ湾岸のイランまでをカバーする広義の意味です。

イスラエルの建国、そしてその後のイラン革命を受けて、中東地域・アラビア半島では三つ巴の戦いが繰り広げられてきました。イスラエルとアラブ諸国、イスラエルとイラン、そしてイランとサウジアラビア(シーア派 vs. スンニ派)という図式での戦いが、それぞれの強弱はあるものの、このトライアングルの緊張のバランスによって何とか地域のデリケートな安定が保たれてきています。

それがウクライナ戦争を機に(実際にはバイデン政権誕生時に)イスラエルとアラブの“戦い”が一旦棚上げされ、それぞれの領空の通過まで許可するというレベルまで接近しています。

実際にウクライナから退避してくるイスラエル国民とウクライナ人をアラブ首長国連邦のエティハド航空機が運んでくるという異例の事態になっていました。

イラン絡みでは、イスラエルとイランの相克についてはまだまだテンションが高いのですが、サウジアラビア王国とイランの戦いについては、一旦“停戦”状態になっており、相互に話し合いのテーブルに就き、いかにして地域の安定を保つかについて協議するという驚きの事態になっています。またイランとの距離の近さを非難されて、スンニ派諸国からつまはじきにされてきたカタールとの関係改善も行われ、今では協力の輪に交じっています。

一言でいえば“地域の結束の強化”が進み、地域各国の安全と結束、そして経済発展を最大の要素として協力し合っている態勢です。

その半面、欧米諸国との関係性は希薄になってきています。その一因は、バイデン政権が強調する人権などの原理原則が、中東における専制体制や独裁体制への圧力材料として使われかねないという懸念からの防衛意識です。

また各国の生存のために、欧米とも、ロシアとも、そして中国とも“うまく”付き合い、自らの独自の立ち位置を保っています。

今回、ウクライナ戦争で原油価格・天然ガス価格の高騰が続く中、ロシア依存を急ぎ離脱したい欧州各国から原油の増産をしきりに要請されても、その圧力を協力してスルーしていますし、欧米諸国からの再三の対ロ制裁への参加もスルーして、ロシアとの“良好な”関係も維持します。

つまり欧米諸国が求める“同盟への協力”よりも、ロシアも加わっているOPECプラスの結束を重視した現実的な対応を取り、そのプロセスでイランとも協力して、利益確定に徹しています。

混乱の国際情勢下で、コロナの影響や原油価格の下落なども経験して、各国の経済状態は悪化していましたが、非常に皮肉なことに、今回起きたウクライナ戦争(ロシアによる侵攻)に対する対ロ制裁の影響で原油・天然ガス価格の高騰が止まらない状況は、それらの国々の経済をスランプから脱出させ、一気に回復させる効果が見えてきています。

そしてそのような行為の裏には、「圧力をかけても、ロシア産の天然ガスを遮断する行為に出る中、欧州各国は我々に対して決して強く出ることはできない」との読みもあるでしょうし、アメリカに対しては「イランとの緊張状態を打開するために我々のサポートを必要としていることに加え、欧州に比べてエネルギー関連の懸念はかなり低いか皆無なので、自国の国家安全保障が最優先課題のアメリカも我々に強くは言ってこないし、何もしてこない」という認識と戦略が透けて見えます。

70年代のオイルショック時とは性格が違うかもしれませんが、中長期的な視点から見ると、ウクライナ情勢にまつわる国際情勢において、大きな影響力を握っている1グループとなるのは間違いないでしょう。

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