プーチンが描く「核使用」恐怖のシナリオ。国際社会の完全なる分断

 

二つ目は【ロシアの核使用に対して、欧米諸国(NATO)は核を用いた対ロ報復が出来るのか】という問いです。

NATO諸国において、核戦力を保有するのは米英仏のみですが、日本でも話題になった各シェアリングのコンセプトが成り立っているのも事実です。

この問いに対する答えをしてみるとしたら、まずは【時と場合による(It depends.)】ではないでしょうか。

もし間違ってNATO加盟国への影響が出るようであれば、対ロ核報復の口実・大義名分ができることになり、使用への機運が高まりやすくなります。確実に各国、そしてNATO内での激論を呼び、すぐには対応できないでしょうが、NATO憲章第5条の規定を援用して、戦術核兵器による限定的な核使用とでも名付けて報復する可能性は否定できません。

しかし、NATO加盟国に影響が及んでいない場合、すでに今回のウクライナからの武力介入の要請を反故にしてきたように、ロシアによる核使用がウクライナに限定された場合は、NATOとしてどこまでの対応が出来るかは未知数です。

確実に起こるのは、対ロ経済制裁による包囲網が強化され、ロシアは国際社会から追放される方向に進むということでしょう。この際、その成否は、ロシアを今でも支援する中国(国連安保理常任理事国)の出方次第ですが、中国が見捨てた場合は、一気にロシアの瓦解への道を進むことになるでしょう。

ところで、これはまた別のジレンマを国際社会に投げかけることになります。

それは、ロシアが核を使用した場合、アメリカは必然的に報復に打って出ないと、これまで第2次世界大戦以降築いてきた超大国としてのステータスが終わりを迎えることになりかねません。

もしアメリカ政府の対応が生ぬるいと評価されてしまった場合、アメリカによる有事の防衛が意味してきた信頼性は失われてしまい、中ロに隣接し、これまでアメリカの核の傘に守られてきた国々は、もしかしたら自主防衛のために核開発と配備に偏りかねません。

できればロシアとの直接的な対峙は避けたいと願い、実際にウクライナへの派兵は見送ってきたバイデン政権ですが、その裏には二つの大きな理由があるようです。

一つ目は【バイデン政権下で、アフガニスタンとイラクから米軍を撤退させた今、ウクライナを含む外国に米軍を派兵する決定を政治的に下せない】という状況です。

そして二つ目は【財政状況の悪化度合いがすでに大幅に危険水域を超えており、アメリカ単独でも派兵できた時期のように自軍を送り込み、戦闘に駆り出すだけの経済状況が存在しない】というジレンマです。

このような理由をベースに起きうるのが、欧米諸国の対ロシア制裁に温度差が生まれ、同盟関係内での関係の亀裂を呼びかねない状況です。

このような状況は、場合によっては、中国を利することにもつながります。欧米諸国や日本がロシアに持っていた権益から撤退を進める中、着々と経済圏を広げているのが中国ですが、それとは別に、間接的には【中国による台湾侵攻決行時に、核兵器の使用の可能性をちらつかせる戦略を取れば、対中包囲網の結束を崩し、アメリカとその同盟国との間の信頼関係を傷つけることもあり得ます。

プーチン大統領がただ自らのTo do listを順にこなしていくという野望だけならばまだしも、仮にアメリカとその同盟国との関係に亀裂を入れることまで目論んでいたとしたら、大変恐ろしいシナリオを描いているようにも感じます。

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