プーチンが描く「核使用」恐怖のシナリオ。国際社会の完全なる分断

 

ではその“ロシア”はどのような核関連のジレンマを抱えることになるでしょうか?

それは核兵器の不使用に落ち着いた場合、個人的には非常にめでたいトレンドだと考えるのですが、それは核兵器を持つことは、決して国際社会における力のシンボルとはならないことも明らかにします。そして【核兵器は使えない兵器】という認識が広がることで、国際社会における力のバランスの定義が大きく覆ることも意味します。

今回のウクライナ侵攻において、本当に報じられるようにロシアが通常戦闘において不利になってきているとしたら、勝利が絶対条件であるロシアにとっては、核を使うための壁は低くなりがちでしょう。

しかし、核を使わなかったとしたら、それは危機的な状況に際しても、核は“使えない”兵器という認識を強化し、核兵器の役割が終焉することを意味するかもしれません。

これはこれで望ましいことなのですが、プーチン大統領はロシア国家および人民が追い詰められたと感じた際には、恐らく躊躇せずに使うと明言していることもあり、自らの権力基盤を再度固めようとするのであれば、無茶を承知で使用へと傾くかもしれません。

この際、確実に起きてしまうのが、国際社会の完全なる分断状況でしょう。核使用に対しては、ロシア・米国(英国)双方が激しい非難を浴びることになります。先述のように欧州各国との協力も消え去りかねず、反ロシア同盟内での「分断」は、結果的にロシアを利することにつながるでしょう。

分断と言えば、すでに対ロ制裁への各国の反応について温度差があることに注目しなくてはなりません。

ロシアによるウクライナ侵攻直後に行われた対ロ非難決議をめぐる国際社会における攻防は、今度はインドネシアが議長国を務めるG20の場に持ち込まれ、それはG20の完全なる機能不全へとつながりかねません。

ロシア・プーチン大統領は、この分断を巧みに利用しているようにも見えます。

先日、その口火を切ったのが4月21日にワシントンDCで開催されたG20財務大臣・中央銀行総裁会議において、ロシアによる発言時に、アメリカ・英国・カナダの大臣たちが一斉に離席するという、前代未聞の外交的なボイコットです。

同じことが11月15日から16日にかけてインドネシア・バリ島で開催予定のG20サミットでも起こりそうな気配です。

議長国のインドネシアは、すでにプーチン大統領をG20に招待する意向を示しており、当のプーチン大統領もすでに参加を表明しています。

これにより、G20の分断が明確化することになります。ロシアの参加に異議を唱える米・加・英・EU・豪州、そして日本政府のグループと、中ロが率いるグループにG20諸国が分かれることになるでしょう。この時、新政権が発足した韓国や、欧米とロシアの間でバランスを取ろうと苦戦しているトルコはどのような対応を取ったとしても、分断に加担する羽目になります。

結果として、中国とロシアのきずなはさらに強化されますし、対ロ制裁に異議を唱えてきたG20諸国は欧米とのつながりを弱め、中ロが構築しようとする国家資本主義体制の陣営になびいていく可能性が高まるでしょう。

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