セクハラ疑惑の文春砲も出た細田衆院議長はなぜ「10増10減」に反対するのか

 

そして、その動きを扇動しているのが、こともあろうに細田衆院議長なのだ。細田氏は昨年末の自民党選挙制度調査会に出席したさい「地方を減らして都会を増やすだけが能じゃない」と発言、独自の「3増3減」案を提起した。今年4月9日の地方講演でも「議長がいろんなことを言うと『黙っておれ』という人もいるかもしれないが、そうはいかない」とまくしたてた。

議長たるもの、中立でなければならない。だからこそ、派閥の会長をやめ、衆院の自民党会派から離脱したのではなかったか。

そもそも細田氏は「10増10減」の根拠となる衆院選挙制度改革関連法を2016年に議員立法したさいの提出者の1人でもある。

伊吹文明元衆院議長が自民党二階派の会合で「議会が決めたことを(議長が)公然と批判したら、国会の権威は丸つぶれだ」と語ったのは、しごく当然のことだ。

細田議長はなぜ、「10増10減」をぶち壊そうと躍起になるのだろうか。細田氏の地元、島根県(衆議院定数2)は「10増10減」の対象ではない。人口減少は続いているが、将来推計人口をもとにした小黒教授の試算によると、2075年に至っても「定数2」は変わらない。

考えられるのは、安倍派の勢力維持との関わりだ。細田氏が長らく同派の会長をつとめてきたことは周知の通り。最大派閥会長の座を安倍元首相に譲り、名誉職ともいえる議長に就いたのは、ひとえに強いリーダーを求める派閥の将来を思えばこそだったはずだ。

「10増10減」はまさしく、その安倍元首相の選挙を直撃する。実施されると、安倍氏の地元、山口県は現在4つある選挙区が3つになり、自民党は公認候補者を1人減らさねばならなくなる。

1区は高村正彦元副総裁の地盤で、昨年の選挙では長男の高村正大氏が当選した。2区は安倍氏の実弟、岸信夫氏が2012年以来、連続当選している。3区は参院からのくら替え当選を果たした林芳正外務大臣で、4区が安倍氏だ。

定数3になったら、いったい誰が公認を外されるのか。かりに3区と4区が統合されるとすれば、安倍か林かという究極の選択を党本部は迫られる。林氏はポスト岸田の有力候補とも目され、下関にも山口にもしっかりとした基盤を有する。安倍氏にとって最大のライバルであるのは間違いない。

細田議長と自民党衆院議員たちの動きに対し、茂木幹事長は参院選への悪影響を恐れ、今のところは静観の構えを崩していない。岸田首相は「勧告に基づく改正案を粛々と国会に提出する」と表明している。

岸田首相とすれば、「10増10減」を切り札に、安倍氏との政治的駆け引きを有利に運びたいという思惑もあるのだろう。

だが、先述したように、今年6月25日までに区割り変更案が岸田首相に勧告されることになっており、そのころには再び、自民党内が騒がしくなるに違いない。

ただし、細田議長が「10増10減」反対論を唱えるのは、難しい選挙事情をかかえる安倍氏への忖度だけではないと筆者はみている。

かつて「10増10減」の根拠となる法案の提出者4人のうちの1人として名を連ねたのは事実だが、選挙通として知られる細田氏が、アダムズ方式をすんなり受け入れたとは信じがたい。

細田氏は自民党の選挙が、地方への手厚い議席配分と、それによる世襲の継続に支えられてきた事実を重視していたはずである。

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