なぜオンキヨーは経営再建ではなく、いきなり「破産申請」を選択したのか?

 

買掛金の支払いの遅延がオンキヨーHEの経営を苦しめた

ですが、課題はありました。確かに有利子負債をベースとするネットデットは少なかったのですが、負債自体は2021年9月時点で48億円もあったのです。そのうち、流動負債が占める割合は、93%の44億円で、多い順に支払手形及び買掛金16.4億円、未払金10.1億円、短期借入金5.8億円と続きます。長期借入金は負債全体の2.5%程の1.2億円でした。

これら負債の中で、有利子負債は全部で7.4億円。一方、現金等は5.6億円近く持っていたので、確かにネットデットは1.8億円しかありませんでした。これだけ見れば借金が多くは見えませんが、短期の流動負債である支払手形、買掛金、未払金、未払費用を合計すると30億円もあったのです。

対して、換金が比較的早くできる流動資産としては、現金が5.6億円、受取手形及び売掛金9億円、未収入金4億円の合計18.6億円しか有りませんでした。いくら有利子負債が少なくても、これだと資金繰りがとてもではないですが、まわりません。

さらに買掛金については、支払いの遅延という別の課題もありました。図表6にあるように、支払いが遅延している営業債務が2020年には60億円以上あったのです。

図表7 オンキヨー 営業債務の推移

出所:オンキヨー株式会社 2020年3月期決算ハイライトより作成

出所:オンキヨー株式会社 2020年3月期決算ハイライトより作成

図表5でみたように、2020年3月末時点の有利子負債は15.8億円で、ネットデットは8.6億円と、ネットデットは順調に下がっていましたが、65億円の遅延している営業債務があると、経営には大きな影響をきたします。

どういうことかというと、営業債務の支払いが遅延をしたため、十分な部品の調達が出来ずに、売上の機会を逃してしまったのです。実際、2020年3月以降は、新型コロナウイルス感染症により、マレーシア工場の稼働が限定的になったうえ、営業債務の支払いの遅延が継続したことで、取引先から取引条件の見直しを求められ、部品の調達に影響が出て、生産を縮小・停止せざるを得ない状況になりました。その結果、図表1にあるように、売上も大幅に下落してしまったのです。

ネットデットという経営指標自体は改善傾向にあったのですが、流動負債の改善が出来ず、その結果調達にも影響が出て、生産が縮小し、売上も大幅な下落につながってしまいました。営業債務に関しては、デットエクイティスワップと言った負債を純資産に転換する金融手法も行ったものの、最終的に資金繰りに窮し、オンキヨーHEは、破産申請を余儀なくされたのです。

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