なぜオンキヨーは経営再建ではなく、いきなり「破産申請」を選択したのか?

 

法的整理を通じた経営再建ではなく、破産申請に至った理由

ここまでの話をまとめるために、本稿の最初の問いに戻りましょう。今回のオンキヨーHEの破産申請には2つの論点がありました。第一に、なぜ民事再生や会社更生といった経営破綻後の企業再生手続を申請するのではなく、いきなり会社そのものが無くなる破産を申請したのか。第二に、負債額が31億円とそれ程大きくないのはなぜなのか。

まずは第一の問いについてです。民事再生や会社更生を行うためには再生計画が必要であり、この再生計画では通常有利子負債や営業債務のカットと、返済計画が記載されるケースがほとんどです。

しかしながら、オンキヨーHEの場合、そもそも有利子負債がそこまで大きくなく、経営を圧迫していませんでした。営業債務は確かに多い状況だったので、営業債務をカットすることで、経営は楽になることは間違いないですが、事業譲渡を軸に実態のある事業を個別に譲渡してきたこともあり、残った事業でもキャッシュを生み出せるような事業はほとんど残っていなかったといえます。実際のところ、粗利ベースでもほとんど利益が出ていない状況です。つまり、多くの事業譲渡を経て残されたオンキヨーHEでは、事業再生が難しいという判断が行われたと考えられます。

次に、第二の問いについてです。そもそもオンキヨーHEがネットデットを経営指標としていたため、有利子負債額は少なかったことがあげられます(図表6)。事実、2021年9月末時点では負債の93%が流動負債で、その半分以上が営業債務というほどです。

ここで、改めての説明になりますが、有利子負債とは金融機関から借りる借入金等のことを言います。企業が借入金に代表される有利子負債を活用する目的は大きく分けて2つあります。一つは、設備投資等のための借入れで、もう一つは、短期の運転資金のための借入れです。オンキヨーHEの有利子負債が少ないということは、これら2つの借入れをあまりしていなかった、もしくは返済をしてきたということです。ネットデットが経営指標になっているので、意図的なところもあるでしょう。

かたや営業債務とは、仕入先に対する支払いの債務等のことです。営業債務が多いということは、仕入先に対する支払債務が多く残っていたということです。事業がきちんと回っているならば、これら営業債務に関する資金繰りは、通常金融機関からの短期の借入金で賄うことができるはずです。

ですが、オンキヨーHEの場合は、多くの事業譲渡を行ったことで、十分にキャッシュを生み出すことができる事業を有していない状態だったといえます。このような状況では、オンキヨーHEの経営指標や意図とは関係なく、営業債務の資金繰りを手当するための運転資金を金融機関から借り入れするのは難しかったと予想されます。実際、図表5のような営業損失の状態だと、運転資金のためのローンの提供を金融機関がためらうのは当然でしょう。そのため、営業債務支払いのための借入も出来ず資金繰りに窮したといえます。

第二の問いに戻ると、確かに2021年3月末時点の売上高89億円から比べると、負債総額31億円はそれ程大きくはないです。一方で、2021年8月以降の多くの事業譲渡を経て、残った事業から生み出される売上やキャッシュのことを考えると、31億円という負債総額は決して小さくないどころか、とてもじゃないですが支払可能な金額ではなかったと思われます。

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