バイデン訪日後に急変。米国がウクライナ援助を“様子見モード”に替えた裏事情

 

ロシアにとっては、仮に和平交渉に臨み、何らかの合意が出来たとしても、もう欧米諸国との関係の修復は不可能と見切っており、どうしても協議に応じるための条件が高くなってしまいます。

自らにとって、交渉のテーブルで強い立場に立つためには、軍事的な勝利が不可欠との考えから、今のところは、戦い続ける以外にチョイスはないとのことです(もちろん、ここでいう“軍事的な勝利”が具体的にどのような状態を指すのかは、探る必要がありますが)。

ウクライナにとっては、国家の存亡がかかっていて、かつ戦況が一進一退で、必ずしも有利とはいえない中、和平協議を行う素地はそろっていないのは事実です。

ゼレンスキー大統領は「2月24日以前の状態に戻れば…」というように和平協議に応じる条件を下げているようにも思えますが、同時に「すべての街をロシアから取り戻すまでは戦いを止めない」とも繰り返し発言し、対ロ徹底抗戦のための支援を欧米諸国に要請している状態でもあるため、こちらもまだ交渉に臨めるような状況が揃っていないと思われます。

エルドアン大統領は決してあきらめないと思いますが、まだ機が熟していないのも事実かと考えます。

さて、話を少し戻しますが、アメリカの方針転換の裏にあるのは、東京での日米首脳会談やクワッドの会議、そしてIPEFの会合などを通じて再認識した“中国の脅威の拡大”だと思われます。

バイデン大統領訪日中に中ロの爆撃機が日本海を飛行して抗議の意思を示したという示威行為や、不発に終わったと見られている王毅外相の南太平洋および太平洋の島嶼国10か国訪問と、中国主導の安保体制の構築への動き(しかし、ソロモン諸島のみ、中国の誘いにこの時点で加わった)、そして在日米軍基地や日本の自衛隊基地を想定した攻撃訓練の存在や、尖閣問題エリアでの示威行動、そして台湾への軍事的な威嚇行為などが目立ってきたことがあります。

シンガポールを訪れているオースティン国防長官は、台湾へのコミットメントを想定して「統合抑止力の強化と必要性」に触れていますし、中国からの威嚇に応える形で、台湾への軍事支援の強化を明言して、中国の動きをけん制し、「アメリカはアジアを忘れていない」との意思を表示しています。

通常は、ここで中国政府は激しい反発を加えるところですが、どうもこのところ、対米非難のトーンを下げているように思いますし、何よりも珍しいことに、王毅外相の南太平洋訪問時に中国との地域安全保障体制という提案を棚上げにするという行動に出て、これまでのように従わせることよりも、今は関係の構築・維持に舵を切ったと思われます。

それにはいろいろな理由が考えられますが、最たるものは【秋に控える5年に一度の共産党大会で、習近平国家主席の3期目実現を確実にするために、今、国内外で物事を荒立てたくない】との意思でしょう。

特に前国家主席の胡錦濤派の幹部からは、習近平国家主席によるアメリカとの行き過ぎた対峙を懸念する声が強まり、それが習近平国家主席の3選に対するハードルになりかねないと言われていることも大きな理由でしょう。

そして、北京の友人たちの分析では「アメリカとの対峙は、別に今でなくてよい。また機は熟しておらず、不要な戦いに巻き込まれるのは賢明ではない」という判断がどうも働いているとか。

とはいえ、まったく戦わないのもよくないとのことで、戦いの舞台を国連安全保障理事会に移して、ロシアと共に、安保理の完全なる機能不全を演出し、久々に中国マター以外で拒否権行使という、外交的反対カードを使い、対立をアピールしているようです。

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