バイデン訪日後に急変。米国がウクライナ援助を“様子見モード”に替えた裏事情

 

今週発表されたハイマース(高機動ロケット砲システム)のウクライナへの供与は一見すると、アメリカの軍事支援のアップグレード、言い換えればエスカレーション傾向の継続とも認識できますが、もともとゼレンスキー大統領が要請していたのは射程300キロメートル超のロケット砲であり(その後、「少なくとも100キロメートル射程のもの」と要求を下げた)、ハイマースが80キロメートル射程であることからも、政権と軍部としてぎりぎりの線を模索している様子が覗えます。

そしてさらにハイマースの供与条件として、「ロシア領内への攻撃に使用することは許容しない」との文言が、わざわざ加えられ、ウクライナ政府に対して突き付けたことからも、少しアメリカ政府がロシア・ウクライナ戦争に対する間接介入の度合いを下げたことが読み取れます。

しかし、ロシアとウクライナの戦闘は一進一退を繰り返している膠着状態であることには変わりがなく、ウクライナをロシアによる侵攻から守るのであれば欧米諸国によるさらなる後押しが必要だと考えますが、その“さらなる後押し”を、どうもアメリカ政府はじわりじわりNATOという枠組みを用いて欧州各国にバランスを移し始めようとしているように見えます。

その表れがスウェーデンとフィンランドのNATOへの加盟への決意をこれでもかというほど持ち上げて、大統領自ら太鼓判を押すというパフォーマンスまで行って、【ロシア対策はやはり元々の設立目的に沿ってNATOに委ねるべきであり、ロシアに対して直接的な安全保障上のリスクに直面する欧州が、それぞれの現実に基づいて対応すべき】というように、【アメリカによる支援】という形式から【NATOを通じた、特に欧州各国による支援】という形態に変えようとしているように思われます。

メインプレーヤーから、様子見モードへの転換とでもいえるでしょうか。

さらに大きな変化の証とも言えるのが、【プーチン大統領がモスクワに留まること(つまり政権と体制の維持)をアメリカは否定しない】という方針転換でしょう。

これは武器供与のエスカレーション傾向が、望まない米ロ直接戦争の引き金になりかねないとの懸念から、態度を軟化させたものと言われていますが、未確認情報ながら伝わってきた内容では、どうも今週、どこかでバイデン大統領とプーチン大統領の間で電話またはオンラインでの会談が行われたらしいとのことです。

真偽のほどは不明ですが、もし正しい情報なら…。いろいろと妄想したくなります。

さて、アメリカからじわりじわりと責任を押し付けられそうな欧州はどうでしょうか?

そのような感触を得ているかどうかは分かりませんが、欧州連合内も、NATO内も決して一枚岩の姿勢ではないようです。

【ロシアに対して強硬姿勢を崩さず、プーチン大統領の退陣と政権交代を実現するために、ロシアを国際的に、特に経済的に破綻させて、とことん弱体化させるべきという勢力(英国、ポーランド、ハンガリー、バルト三国など)】と、【ロシアに対して引き続き圧力をかけ、ウクライナからの撤退を促す必要はあるが、戦争の長期化が見込まれる中、力の対峙によってではなく、協議・交渉による和平を実現するべき】という勢力(フランス、ドイツ、イタリアが主導)に2分されている模様です。

後者については、すでにショルツ首相(ドイツ)、マクロン大統領(フランス)、ドラギ首相(イタリア)も単独、または共同でプーチン大統領と会談を始めていますし、ゼレンスキー大統領に対しても交渉のテーブルに就く条件の軟化を促しているようです。

特にゼレンスキー大統領に対しては、どうもクリミア半島とドンバス地方についてはロシアに与え、プーチン大統領のウクライナ攻撃の口実をなくしてしまうという“提案”までしているようです。

ただ【国家の存亡】がかかっており、自らの政治生命がかかっている中、ゼレンスキー大統領としては今、和平交渉のテーブルに就くことは現実的ではないと思われますが…。

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