「訴訟で脅す」が維新の“体質”か?名誉毀損で女性議員を訴えた橋下氏の言い分

 

大石氏側の弁護団に「無罪請負人」の異名を持つ弘中惇一郎弁護士が加わったのも、話題性があるからこそだろう。弘中弁護士は5月27日に開かれた第二回口頭弁論報告集会で、こう語った。

「橋下氏が府知事、市長をしていた当時に、メディアの記者を脅しあげて、それでメディアが委縮してしまった。そこにそもそもの原因があると大石さんは言った。それになぜか橋下氏がかみつき、面白いことに自分はメディアとの関係は優等生と言っている。だから、いかに橋下氏が劣等生だったかを立証すると名誉棄損は成立しなくなる。そういう構造の裁判だ」

法廷における主張で、大石氏側の弁護団は、ネット動画やTwitterなどに残る橋下氏の攻撃的な記者会見を、ターゲットとなった女性記者二人の実名とともに、証拠として示したようだ。

おそらく、2012年5月8日の囲み取材動画はそのうちの一つだろう。

毎日放送が府立高校の校長に行った「君が代の起立斉唱」アンケートの結果をもとに、同放送局の女性記者が、一律に「君が代」を歌うよう強制することについて橋下市長の考えを聞こうとしたところ、市長は質問に答えないどころか、逆に記者に対して質問をしはじめた。

橋下氏 「起立斉唱命令は誰が誰に対して出しているんですか。まず事実確認から入りましょう」

記者 「市長がよくご存じじゃないですか」

橋下 「命令は誰が出したんですか」

記者 「市長がご存じのことを私にたずねてらっしゃるわけですよね。それはおかしい」

橋下 「知らないのに質問なんかできないじゃないですか」

大阪府と大阪市では、大阪維新の会の主導で2011年、国旗国歌条例が制定され、「君が代」斉唱時に職員の起立斉唱を義務付けている。この囲み会見より少し前、大阪府立和泉高校の卒業式で校長が「君が代」斉唱の際に教職員の口元を見て歌っているかどうかをチェックしていたことが問題になっていた。

軍国教育への反省から戦後、「君が代」と「日の丸」は、いったん学校教育の場から消えたが、50年代に学習指導要領で復活した。憲法の保障する「思想・良心の自由」からみて、「君が代」を歌うよう強制することがいいのかどうか。教員の間でも意見は割れている。

何度も繰り返し「誰が命令を出したのか」と問う橋下市長に、記者は「中西教育長」「教育委員長」と答えるが、いずれも橋下氏は否定して以下のように続ける。

「誰が決定機関なんですか、そんなことも知らずに取材なんか来るんじゃないですよ。何の取材をしに来てるんですか。命令の主体を知らないのに、なんでこんな取材ができるんですか」

そして、正解を言わないまま、こんどは「じゃあ誰に対して命令を出したのか言ってください」とたたみかける。市長ペースから抜け出そうと、記者は「思想良心の自由」の問題に話を移そうとするが、市長は譲らない。

「命令の対象をまず言いなさい。答えられないんだったらここに来るな」「事実関係も知らないのに取材するなって。勉強不足なのはみんなわかっている」

剣幕はエスカレートした。だが、とどのつまりは、「教育委員会から全教員に(命令が)出されている」。ゆえに、「教育委員会に聞いたらいいじゃないか」と記者の質問から逃げるのである。それも、「教育委員会と首長の権限分配を言ってみなさい、地方教育行政法の24、25条に書いてあるから」などと高飛車に御託を並べて。

だったら、最初から「起立斉唱については、僕が命令の主体じゃないので、教育委員会に聞いてください」と言えばいいだけのこと。実りのない問答に20分も30分もかける必要はない。

その場にいた他の記者たちはどう思っただろうか。自分に重ね合わせ、こんな目にはあいたくないと感じるのが人情というものだろう。

筆者はとくに起立斉唱の問題に関心があるわけではない。この動画が、記者会見においてとかく行き過ぎになりやすい橋下氏の発言ぶりを最も端的に物語っていると思ったから取り上げたまでである。

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