翌日、安倍氏は、「健全化本部」の額賀福志郎本部長に「こんな提言を出したら恥をかきますよ」とプレッシャーをかけ、修正を促した。
安倍氏のごり押しに、「健全化本部」は折れた。5月26日にまとまった提言では、アベノミクス関連の文章が大幅に修正されていた。
「近年、多くの経済政策が実施されてきたが、結果として過去30年間のわが国の経済成長は主要先進国の中で最低レベル」。この部分は以下のようなった。
「近年、多くの経済対策が実施されてきた。アベノミクスによって名目GDPは過去最高となったものの、なお過去30年間を通じてみれば、わが国の経済成長は主要先進国の中で最低レベルである」
むりやり「アベノミクスによって名目GDPは過去最高」を挿入したわけだ。恥かしくも苦しい安倍氏の言い訳を代弁した形である。
そして、「初任給は30年前とあまり変わらず、国際的には人件費で見ても『安
い日本』となりつつある」の部分はバッサリ削られ、代わりに、「アベノミクスは道半ば」を足している。
この修正案は、5月23日、議員会館の安倍事務所に集合した安倍氏、額賀氏、西田昌司氏(財政政策本部長)、麻生太郎氏(健全化本部最高顧問)の4人の間で合意されたものだという。
アベノミクスは、円紙幣をじゃぶじゃぶ発行すれば、景気が回復し、財政再建もできるはずという政策だった。日銀は買いオペで金融機関が保有する国債を買いまくったが、資金需要のないなかでは、カネは日銀の各銀行の口座にたまり続けるばかりだった。期待感が先行して株価だけは上昇したものの、市中にカネは回らず、具体性のない成長戦略は掛け声倒れとなった。
もともとアベノミクスは輸出企業を助けるための円安政策だったが、ここへきて米国との金利差で円安が加速し、物価高にあえいでいる。まさにアベノミクスの副作用が強く出ている状況といっていい。
本来、岸田政権に求められるのは、なぜアベノミクスがうまくいかないのかを徹底的に分析し、新しい経済政策に生かすことである。そのために「骨太の方針」の策定が待ち望まれていたはずであろう。
なのに、「骨太の方針」に反映させようと会合を重ねて議論しつくしたはずの提言が、元首相の圧力でやすやすと歪められる。これでは、その行きつく先は目に見えている。
もちろん、岸田首相がしっかりしていれば、党内の動きがどうであろうと、心配はいらないはずである。だが、岸田首相が唱える「新しい資本主義」は、予想された通り、「新自由主義からの転換」とは程遠い内容だ。
所得格差を是正するため「分配」を手厚くするはずだったが、5月31日にまとまった実行計画の原案からはその理念が消え、株式の保有者が税制優遇を受けられる「資産所得倍増プラン」が掲げられた。富裕層が恩恵に浴しやすいという点ではアベノミクスと変わらない。
経済政策の根本理念が定まらないのでは、「骨太の方針」も流されやすい。安倍、麻生氏ら4人の“政治決着”で調整済みの党提言を岸田首相はそのまま受け入れるよりほかなかった。
当初案では目標期限を示していなかった防衛予算の大幅増額についても、安倍氏が「しっかりとした目安と期限を明示して国家意思を示していくべきだ」と発言したことが影響し、「5年以内」と明記された。
国家権力と偏向メディアの歪みに挑む社会派、新 恭さんのメルマガ詳細・ご登録はコチラ