待ったをかける安倍晋三氏の“亡霊”。岸田首相が逃れられぬアベノミクスの呪縛

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6月7日に閣議決定された「骨太の方針2022」。しかしその内容は、当初案と大きく趣を異にするものと言わざるを得ないものでした。一体どのような政治力学が働いたのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では著者で元全国紙社会部記者の新 恭さんが、「骨太の方針」に安倍元首相の意向が反映されるまでの流れと、修正前と後の文言を紹介。さらに政権を手放した今となっても後継者の政策に口を出す安倍氏の姿勢と、安倍氏につけ込まれる形となった岸田首相を厳しく批判しています。

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岸田首相はアベノミクスの呪縛から逃れられないのか

アベノミクスの哀れな末路ということなのだろうか。賃金は上がらず、円安、資源高でモノの値段ばかり上がってゆく。

岸田政権は打つ手がないように見える。「新しい資本主義」も、「骨太の方針」も、思うにまかせない。独自色を出そうにも、あの人がしゃしゃり出て、待ったをかけるのだ。

「骨太の方針」。官邸直属の経済財政諮問会議が策定し、6月7日に閣議決定された政府の経済対策基本方針だ。この中身をめぐり、自民党内で激しい駆け引きが繰り広げられた。

6月3日付朝日新聞の記事によると、「骨太の方針」に反映させるべく自民党の財政健全化推進本部がまとめた提言案には、当初、下記のような記述があった。

「近年、多くの経済政策が実施されてきたが、結果として過去30年間のわが国の経済成長は主要先進国の中で最低レベル」「初任給は30年前とあまり変わらず、国際的には人件費で見ても『安い日本』となりつつある」

単に、事実を記しているだけである。「安い日本」という表現も、メディアで散見され、過激とも思われない。

ところが、これにかみついたのが、安倍元首相だった。「君はアベノミクスを批判するのか?」。5月19日、推進本部事務局長の越智隆雄氏(元内閣府副大臣)に電話してきた安倍氏の声は怒気をはらんでいたという。

越智氏は「僕はアベノミクス信奉者です」と否定したが、自分の派閥の領袖でもある安倍氏からの直々の電話に、さぞかし威圧感を覚えたことだろう。

安倍氏は周囲にこう語ったらしい。「安い日本という表現もおかしい。アベノミクスをなんだと思っているんだ」

自民党には、プライマリーバランスを黒字化して財政再建をめざそうという「財政健全化推進本部」と、積極財政で景気浮揚をはかるべしとする「財政政策検討本部」の二つの組織があり、それぞれ、「骨太の方針」に反映させる提言案の作成を進めてきた。安倍氏は「財政政策検討本部」の最高顧問だ。

観点の違う二つのグループから、異なる提言が出るのは至極当然のことなのだが、安倍氏は自分が所属していない「財政健全化推進本部」の提言案にまで介入したわけである。

実は、越智氏に電話する直前、安倍氏は大号令をかけていた。安倍派の例会でのことだ。

「我がグループも(再建派の議論に)参加している。皆の意見を採り入れてもらい、満場一致の拍手になることが大切だ」。

自派閥から健全化推進本部に送り込んでいる議員に“蜂起”を促した発言だった。

この2時間後、健全化推進本部の会合は、安倍派の議員が提言案に異論を唱えたことで大荒れとなった。「安い日本」という文言は自虐的だから削るべき、などと要求したのだ。

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