見捨てられたウクライナ。EU内に響き始める「戦争疲れ」の不協和音

 

そして今回の大きなトリックは、EU加盟候補国という非常に微妙な立ち位置の提供です。

このステータスにある国はまだまだたくさんあり、もう長年にわたって加盟に向けた努力をしていますが、なかなか加盟が叶わないのが現状です。実際に今回の訪問でも「候補国にはなったが、まだまだ加盟に向けてクリアする条件がたくさんある」と首脳たちが語っているのも事実です。

報道では、「欧州が示したウクライナへの連帯」という美しい姿が描かれたわけですが、実際には、国連でのウクライナ人の元同僚曰く、「ただの茶番だ」、「結局、ウクライナは見捨てられた」と語っていました。そして「トルコと同じで、ウクライナがEU加盟国になることはないのだろう…」とも。

EU加盟国も同じで、これまで頑なにEUの東欧諸国への拡大に異議を唱えてきたデンマークなどの北欧諸国も、今回は候補国認定には賛同したものの、「実際の加盟にはまだまだいくつものハードルがあり、かなり困難だと思われる。よほどウクライナが変わらない限り、デンマークは賛同しない」とのことでした。

そのことは、当のプーチン大統領も重々承知のようで、「ロシアとしては経済的な統合体としてのEUの加盟候補国になることに何ら反対はしない」と余裕しゃくしゃくな反応をして見せました。

軍事同盟のNATOに関してはあれほど反対しましたが、彼の過去の表現を借りれば「EUは共通外交政策も安全保障政策も結局は選ぶことが出来ない経済共同体に過ぎない。まあ、ロシアにとっては一つの大きなマーケットが隣にあるので便利なわけだが、全くロシアの脅威にはならない」と言ってのけたのもうなずける気がします。

あの手この手を使ってStand with Ukraine, stand by Ukrainiansを演出していますが、なかなか約束された武器が届かず、届いたとしても欧米仕様の最新兵器を使いこなせないウクライナ軍という状況が明確になる中、ここにきて火力とミサイルなどの“飛び道具”で圧倒するロシアからの、意地ともいえる攻撃の嵐にどこまでウクライナが耐えられるか、非常に懸念しています。

そのような中、なかなか勇気ある行動を取ったのが、バルト三国のリトアニアで、ロシアの飛び地であるカリーニングラードへのロシアからの鉄道での輸送を制限するという措置を発表しました。ロシア政府は激怒しつつも、バルト海経由での海路輸送に転換して対応するようですが、これはロシアからの攻撃はないと確信してのことでしょうか?

一応、欧米がロシアに課す制裁措置に沿ったものとのことですが、もしそうであるなら、どうして侵攻から4か月経ってからの突然の措置なのでしょうか?少し不可解です。

これは現在、リヒテンシュタイン在住のリトアニア出身の友人の話ですが、「ロシアからの離脱を鮮明にし、ロシアと事あるごとに結び付けられることへの抵抗と、欧州各国の覚悟を試しているのではないか」とのことでした。

今回の措置を受けて、EU各国とNATO加盟国は、言葉の通り、リトアニアや他のバルト三国をロシアから守るためにコミットするか否かを見極めるのではないかとのことです。これまで再三にわたり、EUからのリップサービスに騙されてきたとのことで、今回、ミサイル・イスカンダルまで配備されているカリーニングラードとロシア本土を切り離す賭けに出て、ロシアとの決別を明確にしたリトアニアの意思にどうこたえるのかを見たいそうです。

これは、たとえとしてはよくないかと思いますが、日本が仮に竹島を奪還しに行く、尖閣諸島周辺で活動する中国船を拿捕する、そして北方四島を奪還しに行くとした際に、本当にアメリカは来るのかを試すようなものでしょうか。考えるだけでも、背筋が凍りそうですが…。

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