見捨てられたウクライナ。EU内に響き始める「戦争疲れ」の不協和音

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両軍に凄まじい数の戦死者を出す中、6月24日で4ヶ月が経過したロシアによるウクライナ侵攻。表向きにはウクライナとの連携を強調する欧州各国ですが、その対応に様々な変化が現れているようです。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では著者で元国連紛争調停官の島田久仁彦さんが、EU内で響き始めた数々の「不協和音」を取り上げその背景を解説。さらにこの戦争が遠く離れた貧しい国の人々にもたらしている「危機的な状況」と、その被害者たちを利用するかのようなプーチン大統領の強かな戦略を紹介しています。

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ウクライナ戦争の裏で起きる様々な悲劇と混乱の予感

「我々はウクライナが勝利するまで寄り添う」

フランス・マクロン大統領、ドイツ・ショルツ首相、イタリア・ドラギ首相、そしてルーマニア・ヨハニス大統領が連れ立ってキーフを訪れ、ゼレンスキー大統領に“約束”したのがこの言葉です。

そして4首脳そろって、ウクライナのEU加盟候補国への支持を述べました。

しかし、この直後からすでに、EU内では不協和音が出ています。

その理由の一つが、マクロン大統領とショルツ首相が、ゼレンスキー大統領に「一日も早くプーチン大統領と話し合うべき」と述べたことです。

イタリアのドラギ首相は少しこの発言からは距離を置いているようですが、ルーマニアのヨハニス大統領はこれを聞いて激怒したとか。

そしてそれを言われたゼレンスキー大統領も、「プーチン大統領との話し合いは拒否しないし、何度も申し入れをしている。いずれそれが必要となるときが必ず来る。しかし、今、必要なのは欧州各国の一枚岩の対応であり、残念ながら私にはそれが見えない」と不満を述べたとのことです。

元々ロシア・プーチン大統領との特別な関係をアピールしてきたマクロン大統領と、エネルギーなどの脱ロシアを掲げながらもその困難さに直面しているショルツ首相ですが、彼らの発言は、他の欧州各国からはすでにウクライナ戦争終結後のロシアとの関係修復を狙った秋波と受け取られたようです。

実際にドイツはロシアからの天然ガス輸入への依存度を低下させようと動いていますが、軒並み上がり続けるエネルギー価格にそろそろギブアップしそうな状況で、ついに禁じ手の(そして日本を散々非難してきた)石炭発電の利用延長と拡大利用に踏み切りました。

ちなみにドイツの石炭火力発電は、日本のものとは違い、効率は悪く、かつ褐炭を使用することが多いため、温暖化効果ガスの排出が多いのですが、これがまた、欧州の環境先進国を自負して、隣国ポーランドをはじめ、石炭をベースロード電源として用いる中東欧諸国を散々非難してきたしっぺ返しが来ています。

フランスについては、直接的に影響があったとは思えませんが、過剰なまでのウクライナ戦争へのコミットメントが、エネルギー・食料などの物価高騰に苦しむ消費者の怒りを買い、国民議会選挙で与党連合が100票以上議席を失い、代わりに左派連合とマリー・ルペン氏が率いるFront Nationaleが大幅に票を伸ばし、国内政治の運営が大変困難になる予想です。

「これは、ロシアによる欧州全体への宣戦布告」
「これは民主主義に対する挑戦」

と叫んで我慢を受け入れてきたウクライナ戦争への疲れと飽きがはっきりと表れるようになってきていると言えます。

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