見捨てられたウクライナ。EU内に響き始める「戦争疲れ」の不協和音

 

ところで、どうしてもウクライナ戦争が報道で流れるがゆえに、忘れられがちになるのですが、世界の他の場所でも争いは起きています。

例えば、歴史の繰り返しでしょうか。インドが今、ミャンマー国境線を越えて、ミャンマーに侵攻しているという情報が入ってきました。

政府軍によるものではないとのことですが、かつてのビルマ帝国時代に英国の影響を受けたインドが侵攻して、ビルマ帝国を支配下に置くという図式の再現ではないかと思われる動きと言われています。

現時点では大きな争いには発展していないとのことですが、ミャンマー国軍によるクーデターと民主派グループとの争いの中で、各国のミャンマー離れが加速する中、かつての歴史に倣ったかのように、インドが今、静かに動き出しているようです。

そしてこれは、すでにミャンマーで勢力圏を築いているライバル・中国への挑戦とも受け止められており、表立って発言はしていませんが、中国政府内もざわついていると言われています。秋の5年に一度の中国共産党大会までは一切のいざこざを抱えたくない共産党指導部としては、よほどインドが明確にミャンマーへの侵攻を行わない限りは、状況をつぶさに追いつつも、口出しも手出しもしないでおこうということでしょうか。

とはいえ、北京にはどこか「ミャンマー国軍は中国を裏切らない(裏切れない)」との自信もあるようです。

伝えられている内容では、現時点ではまだ“あくまでも国境地帯のいざこざ”であり、中国政府がここで声を挙げたり、何らかの行動を取ったりするような段階ではないとの分析もあるようです。

いろいろな地政学的な思惑が絡んでいる複雑な情勢ではありますが、いつも被害を受けるのは一般市民であることを私たちは忘れてはいけません。

そしてその“一般市民への悪影響”は、何もウクライナの一般市民やミャンマーの人々だけではありません。

現在進行形のウクライナ戦争に絡む、ロシア艦隊による黒海封鎖は、ウクライナからの小麦をはじめとする穀物の各国への輸出を妨げています。まさしくそこが、トルコも間に入る形で解決を試みようとしている案件の一つなのですが、その最大の影響は、今回の戦争とは全く関係がないはずのアフリカ諸国で深刻化しています。

その最たる例が南スーダンと言われており、安価なウクライナ産穀物(特に小麦)に依存するサプライチェーンが確立していた中、今回の海上封鎖は、穀物が南スーダンの人々に届くことを遮っており、刻一刻と飢餓が深刻化しています。また隣国エチオピア同様、最近の砂漠バッタの大量発生の影響と、気候変動による干ばつの影響も重なり、事態が好転する兆しがありません。

そこに隣国エチオピアのティグレイ紛争の影響も重なり、そして今回の海上封鎖によって先進国側や周辺国にも、南スーダンに振り分けられる余剰分は存在せず、残念ながら最も脆弱だとされる国や地域から次々と危機的な食糧難に陥るという、大変な悪循環が表出してきています。

南スーダンに特使まで派遣するアメリカ政府も手をこまねいていますし、世界銀行や世界食糧計画(WFP)なども、ウクライナ対応に追われ、その他の危機的な状況に気づいても対応が間に合っていない状況が続いています。まさに本末転倒です。

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