ウクライナ戦争を利用する狡猾さ。国際社会の表舞台に復活した国の名前

 

そして二つ目が、今年2月24日にロシアによるウクライナへの侵攻に端を発した現在進行形のウクライナ戦争です。

皆さんもご存じのように、トルコ政府はウクライナとロシアの間の停戦協議の仲介を申し出て、これまでにアンカラやイスタンブール、イスミールなどで両サイドが協議する場を提供しています。

また最近では、「ロシア・ウクライナ・EU・トルコの4者で黒海におけるウクライナ産小麦などの穀物輸出管理を行い、その事務局をイスタンブールに設置する」といった提案も行うなど(注:米国およびウクライナからは受けが良くなかったようですが)、いろいろと微妙な距離感を保ちつつ、紛争に絡んでいます。

紛争の調停に携わりつつ、ウクライナへの武器の供与も行い、実際には求めに応じてロシアにも武器の売却を行っており、しっかりと「比較的安価で性能がよく、メンテナンスも簡単」という触れ込みで武器を売り、国内の軍需産業も潤すとおうサイクルを築き上げています。実際に、あまり報道はされませんが、他国からもトルコ製の兵器への引き合いが強くなったようです。

欧米諸国は、NATO加盟国でありつつ、影でロシアもサポートし、かつロシア製のS400の購入・配備計画も着々と進めるトルコの姿勢をよく思っていないようですが、これまでに比べて、あまり強気にトルコへの批判を強めることが出来ていません。

その理由はスウェーデンとフィンランドのNATO新規加盟問題で、最後まで加盟国の全会一致を必要とするという条項を最大限活かして、トルコが反対し続けてきたことです。

一応、6月28日のNATO首脳会議に際して、一転トルコが賛成に回るという展開になりましたが、フィンランドとスウェーデン(そしてほかのNATO加盟国)にほぼ100%トルコの要求を呑ませたことが分かります。

それは、フィンランドとスウェーデンの首脳が述べた「相互の国家安全保障問題を尊重する」という文言からも推察できます。

トルコがテーブルに乗せていた両国内のクルド人のトルコへの送還という要求は、さすがにフィンランド・スウェーデンの人権規定的に不可能ですが、トルコが今、進めようとしている5度目のシリア国内にあるクルド人勢力拠点への越境攻撃(欧米からの対トルコ制裁の対象)については、一応、懸念は述べつつも、トルコの国家安全保障問題に関する重要事項と認識して、口出しはしないということを暗に指していることになります。

同様の内容の発言を以前、アメリカ国務省の高官が行っていますが、ぎりぎりの線までトルコに対して譲歩してでも、NATOの結束を選択するという決意と考えることができるでしょう。

そして、これまでシリアを中東・アフリカ地域への戦略的拠点と位置づけ、トルコによる越境攻撃に反対してきたロシアも、現在、ウクライナ戦争の当事者となっており、駐シリアのロシア軍を撤退してウクライナ戦線に投入していることから、公言はせずとも、トルコによるクルド人勢力への攻撃を容認したと受け取ることができます。

これにより、恐らく近日中に、世界の目がまだウクライナ戦線に注がれている裏で、トルコ軍による越境攻撃が開始されることとなるでしょう。

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