ロシアとの関係
安倍さんといえば、アメリカのオバマさん、トランプさんの二人と親友だったことで知られています。完全リベラルのオバマさん、完全ナショナリストのトランプさん。この二人と仲良くできた首脳は、安倍さん以外にいませんでした。
たとえばメルケルさんは、オバマさんと仲がよく、トランピさんとは仲が悪かった。イスラエルのネタニヤフ首相は、オバマさんと仲が悪く、トランプさんとは良好な関係にありました。
さらに、安倍さんは、オバマ、トランプと仲がよく、同時にプーチンとも仲が良かった。これは驚愕です。
安倍さんの対ロ政策について、「結局北方領土を取り返せなかったから失敗だ」という人がたくさんいます。しかし、私たちリアリストは、違う見方をしています。
北方領土、もちろん返還を実現できれば、最高でしょう。ですが、「プーチンは、そもそも北方領土を返す気が全然ない」。だから、簡単ではありません。
問題は、「プーチンが北方領土を返す気がないことを知りながら、それでもプーチンと仲良くする意味があるか?」です。普通の人は、「ない!」と答えるでしょう。
しかし、私や、他にも「リアリズムの神様」ミアシャイマー教授、世界一の戦略家ルトワックさんなどは、「中国に勝ちたければ、中ロを分断するべきだ!」と考えます。
こちらが「最重要課題」で、領土問題も確かに重要ですが、「2番目の課題」だったのです。だから、領土問題はどうあれ、「ロシアと友好関係を築くことで、中ロを分断し、中国を孤立させること」が戦略的に重要でした。
さて、2016年12月にプーチンが訪日しました。日本国民もマスコミも、何を考えたかといえば、「北方領土返ってくるかな?」です。しかし、中国は、安倍さんの意図を正確に理解していました。時事通信2016年12月16日付を見てみよう。
中国国営新華社通信は日ロ会談に関する論評で「安倍首相はロシアを抱き込み、中国に対する包囲網を強化したい考えだが、中ロ関係の土台を揺るがすのは難しく、もくろみは期待外れとなる」と反発。その上で「(安倍氏の)私益だけを求めた自分勝手な外交思考は、日本が隣国からの信頼を得ることを間違いなく困難にする。ただの一方的な妄想だ」と批判した。
しかし、中国の思惑に反して、当時日ロ関係は劇的に改善され、孤立した中国は、しばらく動けなくなった。そして、2018年ぐらいになると、中国が日本にすり寄ってくるようになったのです。
今、日ロ関係は、再び最悪になっています。しかし、それはロシアがウクライナに侵攻したからで、安倍さんとは全然関係ありません。
というわけで、安倍元総理は、日本だけでなく、アメリカ、欧州、インド、オーストラリアなどで採用されている、「対中大戦略」=【自由で開かされたインド太平洋戦略】を提唱した。在任期間中、中国とロシアを分断し、中国を孤立化させ、おとなしくさせることに成功した。それで、【世界的大戦略家だった】といえるのです。
安倍さんが亡くなられたことで、日本はどうなるのでしょうか?心配ですが、希望もあります。
岸田さんは、2012年から2017年8月まで、安倍内閣で外務大臣でした。安倍さんと共に世界を回り、安倍さんと共に、対中包囲網を築いていった。だから、岸田さんは、「安倍外交を知り尽くした総理」といえるでしょう。
岸田さんは、ロシアのウクライナ侵攻が起こったとき、迷うことなく、欧米、ウクライナの側につきました。現状、正しい道を歩んでいます。
岸田さんが、安倍さんの「大戦略観」「大局観」を引き継ぎ、安倍さんにつづく「偉大な宰相」になることを期待しましょう。
(無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』2022年7月15日号より一部抜粋)
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