台湾、初の威嚇射撃も「お金がない!?」中国軍ドローンに強力な措置、蔡総統にのしかかる対抗コスト

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中国大陸の鼻先、金門県付近で無人機3機に警告射撃

中国との緊張状態により防衛力の増強を図る台湾。30日には、中国に近い台湾領内の島付近を旋回していた中国の無人ドローンに初の威嚇射撃を行ったと台湾軍が発表し、両岸の緊張状態は日に日にその激しさを増してきています。このドローンへの威嚇射撃に先立ち、蔡英文総統が中国の挑発行為に対して「必要なら強力な対抗措置」を取ることもできると表明したばかりでした。

そんな蔡政権の6年で防衛費は増え続けており、徐々にその負担が台湾を苦しめることになると見るのは、メルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』著者で、多くの中国関連書籍を執筆している拓殖大学教授の富坂聰さん。保護の見返りとして戦闘機購入を決めても肝心のパイロットが不足していること、度重なるスクランブル発進で莫大な経費がかかることなど、中国にもアメリカにも付け込まれている現状を伝え、対立を強めても台湾に利がないことを示しています。

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中国の無人機を「石を投げて」迎撃

台湾海峡の緊張に注目が集まるなか、人々の笑いを誘うある動画が両岸(大陸と台湾=中国と台湾)で拡散された。離島防衛の前線にいる台湾の兵士たちの頭上を飛ぶドローンからの映像で、明らかに大陸から飛来したものだ。映像のなかで兵士たちがカメラを構え、石を投げて落とそうとする姿が映っていたのだ。

最も激しく反応したのは台湾のネット市民だが、世界のメディアも素早く反応した。オーストラリア放送協会が運営する国際放送サービス「ABCニュース」はトップニュースで扱い、「台湾の兵士たちが大陸のドローンに対して石を投げて追い払う映像が拡散したことを受け、ドローンに対する迎撃システムを導入する」と報じた。いまさらか、という反応が出る一方、台湾の金門指揮部は「(大陸の)フェイクで認知戦だ」と強く反発。かえって火に油を注いだ。

この騒ぎのなか奇しくも台湾が発表したのは来年度の防衛予算だ。対前年比で12・9%増は世界を驚かせたが、実態はそれ以上だ。アメリカから調達する最新鋭戦闘機F16Vなどの特別予算を加えれば総額は5863億台湾元(約2兆6500億円)となり、増加幅も対前年比13・9%まで膨らむからだ。

自縄自縛の蔡政権。台湾が支払う巨額の「見返り」

日本のメディアは、「中国が大規模演習で圧力を強めた対抗」だと報じたが、シンガポールの英語ニュースチャンネルCNAは「それは台湾当局の説明」と切り捨てた。そもそも蔡英文政権は6年連続で防衛費を増やしてきた。つまり軍拡は、蔡政権の一つの性質でもあるのだ。

詰まるところそれは、国民党との選挙に勝つために「九二コンセンサス」を一方的に放棄したことに起因する。中台が「一つの中国」を確認した「九二コンセンサス」は、台湾海峡を安定させる安定剤であった。それを捨てれば大陸側が怒り、圧力を強めることは解り切っていた問題だ。蔡政権は今日の結果を予測できた上で、この状態をつくったのだ。

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問題は「対抗」のコストがいずれ台湾の人々の生活に重くのしかかってくることだ。コストと書いたのは、台湾はいまや単独で中国からの圧力を跳ね返せず、アメリカに頼らざるを得ないからだ。そして国際政治の厳しい現実は対立を抱えた者に厳しい。価値観を共有しても対立には付け込まれる。保護を求めればただではない。国際社会の常識だ。つまり見返りは要求されるのだ。

蔡政権の「反中」路線はいつまで持続可能か?

国際関係に疎い日本人には難解だろうが、米議員や元閣僚が台湾を訪れる度に蔡政権は「ボーイングを買え」、「防衛予算は増やせ」と求められてきた。現地紙『中国時報』は日本までもが「新幹線を売り込んだ」と暴露。〈いわゆる台湾史上最大の成果と引き換えに国家が空になってゆく〉と批判した。民進党に厳しいメディアの報道だが、その点を割り引いても、コストが重いことは明らかだ。

さらに悩ましいのは、蔡政権の「反中」一本足打法がどれほど持続可能か、である。話を台湾の防衛予算にもどし、少しその内訳を見てみよう。前出・CNAの解説は興味深い。対前年比で25・4%と異常に伸びたのは、運用維持費だという点だ。行政院主計総署によれば運用維持費とは、「戦闘機のスクランブル発進や台湾に接近する中国の軍艦への対応として出動する船舶の費用」だという。

実は、これこそ中国の思惑だった。スクランブル発進には莫大な費用がかかる。繰り返せば資金は枯渇する。経済力があり国民の理解を得られる中国は有利なのだ。

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