「一帯一路は失敗」の大嘘。ユーラシア軽視で貧困国家化する日本

 

中露が日韓駐留米軍を撤退させる

ユーラシアを席巻した中露は今後、ユーラシアを外側から包囲してきた米軍の基地を撤去しようとするだろう。とくに韓国と日本の駐留米軍は、中露の両方に近く、冷戦中から根本的な動きがほとんどなく維持されてきた。前回の有料記事に書いたように、在韓米軍の撤退は、これから中露が朝鮮半島の和平仲裁を主導していく時に、和平の最終目標になっていく。今後の半島和平を成功させるための最重要な点は、和平や在韓米軍撤退が実現しても、北朝鮮の金家の独裁体制が内部崩壊しないという自信を、金家など北の上層部に持たせることだ。北朝鮮はこれまで、南北の戦争状態や在韓米軍の脅威を使って国内を結束させ、金家の独裁を維持してきた。うかつに和平を達成すると、その後で事態が安定した時に、北の国内で金家の独裁体制を支持する洗脳が解け、政権や国家が崩壊しかねない。北の上層部がそれを懸念している限り、北は何やかんや理由をつけて和平を進めたがらない。

中露主導の朝鮮半島和平への道筋をつけるロシア
Why is North Korea aiming to strengthen ties with Russia?

和平が達成されても北の政権が維持されるには、北の政権の正統性を、軍事(米韓に負けないこと)から経済(北の人々の生活が良くなること)に転換する必要がある。北は、金正日の時にそれをやりかけた。金正日は、経済を自由化した中国に見習って、張成沢ら経済担当の側近を重用し、軍人を遠ざけた。だが、2011年に金正日が死んで金正恩が後継した後、軍部が金正恩をたらし込んで権力の近くに戻り、2013年に張成沢ら経済担当者たちを処刑・降格して外し、北は再び軍事最優先に戻った。これから中露が半島和平を進めるなら、その前に、金正恩を説得して北を経済優先の国策に戻さねばならない。ウクライナ開戦後、北に格安(ほぼ無償)で石油ガス食糧類を供給し始めたロシアは、兄貴分である中国と連携し、金正恩の翻意をうながしていくのでないか。

北朝鮮・張成沢の処刑をめぐる考察
御しがたい北朝鮮

北朝鮮が経済発展し始め、和平が進んで軍事的脅威が減っても北が政権維持できるようになると、南北和解が実現し、韓国が米国に要請して在韓米軍が撤退していく。その前に(もしくは同時期に)、米国が覇権放棄屋のトランプの共和党政権になり、米国の方から在韓米軍を撤退していく可能性もある。在韓米軍がいなくなったら、次は在日米軍だ。

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在日米軍撤退の条件となるのは、台湾が中国の傘下に入って台中の和解が実現することだろう。朝鮮半島が和解しても、台湾問題が残る限り、在日米軍は駐留し続ける。中国(中露)が強くなり、米国が弱くなる傾向なので、日本自身が米国に頼って中露と敵対し続けるシナリオは消えていく。台湾が独立して中国がそれを容認するシナリオもなくなる。武力による台湾併合は、アジアの地域覇権国になる中国の印象を悪くする。アジア諸国から尊敬されたい中国は、台湾を武力併合しない。米国の覇権崩壊など政治環境の変化によって、台湾が中国と交渉する気になるしかない。何らかの道筋で台湾問題が解決すると、米中や日中の対立も低下し、在日米軍が撤退する。米国は金融面と社会面から崩壊しかけているが、これが進むと米英が中露を敵視する力も失われ、日本や台湾は中国を敵視できなくなり、地政学も丸ごと過去の遺物となる。

● 日本の隠然非米化

(無料メルマガ『田中宇の国際ニュース解説』2022年8月29日号より一部抜粋・敬称略)

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